ダイヤモンド・プリンセス号におけるコロナウイルス感染対応の失敗が世界的な注目を集め、「アベはどこだ?」と首相のリーダーシップの不在を海外メディアが問うたのは、2月末のことだった。
その後、安倍晋三首相は、全国一斉休校やアベノマスクの配布、そして緊急事態宣言の発令などに際して記者会見を開き、存在感を示そうと躍起になった。5月25日に緊急事態宣言を全面解除すると、「日本ならではのやり方で、わずか1カ月半で流行をほぼ収束させることができた。日本モデルの力を示した」と胸を張った。しかしその後、通常国会閉会を受けて6月18日に記者会見を開いたのを最後に、再び、国民の前から姿を消した。(上智大学教授=中野晃一)
▽安倍政権の8年半とは何だったのか
「愛国者」を自称する安倍は、なぜ、これほどまでに国民生活を脅かすコロナ禍や災害などに興味、関心がないのだろうか。
「日本を、取り戻す。」と訴え、8年半前に政権復帰した安倍が実際になした政策転換の内実を精査すると、まず安全保障や経済における対米追随路線の推進が挙げられる。
さらに、アメリカの許容する範囲で歴史認識を含めた「戦後レジーム」の修正を行い、特権的な世襲政治家とその「お友だち」による国内支配の貫徹を目指すという実態が浮かび上がる。そうした政権のあり方は2017年ごろから限界を示し、コロナ禍で完全に行き詰まったのである。
安倍とオバマの個人的な関係はともかく、日米政策関係者の「蜜月」はオバマ政権期に絶頂を迎えた。
日本版NSC(国家安全保障会議)の創設、特定秘密保護法、辺野古新基地建設、集団的自衛権の行使容認、武器「爆買い」などと、安倍は、日本の国内世論の強い反対を蹴散らかし、自衛隊と米軍の一体化(実際には、自衛隊が米軍の傘下に統合されることにほかならない)を推し進めた。
安保法制を強行した次のステップとして日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結を望むアメリカの意をくんで、慰安婦問題の日韓政府合意を交わしたほどまでに、米国追随を優先させたのである。
ところが2017年トランプが大統領に就任すると、いくら安倍が個人的にこびへつらっても、同盟軽視の無理難題を押し付けられるだけだった。今や再選戦略しか頭にないトランプには、コロナ禍とあいまって不用意に近寄ることさえできない。
▽世紀の愚策
「アベノミクス」「三本の矢」とメディアや財界を浮かれさせることで始まった安倍の経済政策も、結局は、ついぞ訪れないトリクルダウン(大企業や富裕層が潤えば富が全体に行き渡るとする理論)と寡頭支配がもたらす格差と腐敗と荒廃で記憶されるようになるだろう。
象徴的なのは、「第三の矢」たる成長戦略に位置づけられた国家戦略特別区域が、加計学園問題を生んだことである。
政権末期に唯一残った成長戦略の目玉であるカジノ解禁でもまた汚職の一端が明らかになり、政権はトカゲの尻尾切りに追われた。カジノがアジアの富裕層をターゲットとしたインバウンド観光の需要喚起に一役買う筋書きだった以上に、東京オリンピックの開催はアベノミクスに欠かせなかった。
コロナ感染対策からすると「世紀の愚策」と名を残すだろう「GoToトラベル」キャンペーンに政権があくまで固執するのは、観光関連業界を要とした成長戦略が瀕死(ひんし)の状態にある焦りを示している。
もともと2017年の森友学園・加計学園問題が発覚した頃から、安倍政権は漂流を始めていた。
首相夫妻による公権力の私物化という政治案件が、虚偽答弁や公文書改ざんなどの隠ぺい工作に国家官僚制が組織的に関与する複合的で深刻な問題にさらに膨れ上がっていった。
加えて、自衛隊日報問題や桜を見る会問題、河井克行前法相夫妻による買収問題、検察幹部定年延長問題など次々と重大な政治問題が表面化し、安倍は政権にしがみつくのが精いっぱいになっていったのである。
それがコロナ禍によって、「得意」とされてきた外交安全保障政策は全方位で行き詰まり、緊急事態宣言を悪用できないほどまでに深刻な経済危機に見舞われてしまった。ゲームセットは時間の問題となった。
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47NEWS
8/4(火) 6:02
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