http://www.iza.ne.jp/kiji/politics/news/191221/plt19122120000007-n1.html
立憲民主党の枝野幸男代表が、国民民主党や社民党などに野党合流を呼びかけた。この話は、どこから見ても、ツッコミどころ満載である。
まず、枝野氏は「永田町の数合わせにはくみしない」と繰り返し、他の野党との合流をきっぱり拒否していたのではなかったか。今回の呼びかけは180度の方針転換だ。
なぜ、ここに来て突然、態度を豹変(ひょうへん)させたのか。枝野氏は「強力に安倍晋三政権に対峙(たいじ)するため」などと説明しているが、そんなきれい事でないのはミエミエである。
2018年の政治資金収支報告書によれば、立憲民主党の収入は約36億円だったのに対して、国民民主党は倍近い約65億円もある。加えて、国民民主党には旧民進党時代からの蓄えもあるだろう。ズバリ言えば、枝野氏は国民民主党のカネ目当てで、合流を呼びかけたのではないか。
年の瀬が迫ったタイミングだったのも、政党助成金狙いとみて間違いない。助成金の半分は毎年1月1日を基準にして、所属議員数の割合に応じて国庫から支給される。枝野氏は年末のうちに、議員を増やしたかったのだ。
肝心の政策はどうかといえば、立憲民主党は「原発ゼロ」を唱えているが、電力関係労組を支持者に抱える国民民主党は慎重だ。安全保障や憲法改正問題でも、立憲民主党はかたくなに安倍政権の路線に反対しているが、国民民主党は一定の理解を示している。
立憲民主党と国民民主党、それに野田佳彦元首相ら無所属議員の多くは旧民主党の流れをくむ議員たちだ。彼らは安保政策などで意見を異にしたから、分裂したのではなかったか。対立が解消したわけでもないのに、また合流とは「支持した有権者を無視している」と批判されても仕方がない。
日本共産党との関係はどうするのか。共産党は安保政策や自衛隊の位置付けで意見が違いすぎて、枝野氏は合流対象と考えていないようだ。そうだとすると、立憲民主党と国民民主党、社民党が1つにまとまっても、実は、政権奪取を展望する勢力規模に届きそうにない。
例えば、前回2017年10月の衆院選・比例代表で、自民党と公明党の連立政権与党は2552万票を獲得した。これに対し、立憲民主党と、国民民主党の前身である希望の党は2075万票にすぎなかった。これに共産党の440万票を加えて、2515万票と、ようやく与党に拮抗(きっこう)するのだ。
つまり、与党から見ると、共産党を除外している限り、野党連合は「恐れるに足らない」。逆に、共産党が合流してくるようだと、大変な脅威になる。それは「桜を見る会」問題でも実証された。話が「桜」だったから、共闘できたが、安保や憲法となると、ああはいかない。私は「ぜひ、共産党に筋を通してもらいたい」と思う(笑)。
枝野氏が野党連合をブチ上げたので、安倍首相は衆院解散スイッチが入ってしまったかもしれない。立憲民主党は2月に党大会を開き、総選挙に備える方針だ。安倍首相がそこまで待っているかどうか。
敵の司令官が「2月から総攻撃をかける」と言っているなら、先手必勝と考えるのが普通だろう。私は政局がにわかに動き出した、とみる。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務める。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア−本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。最新刊に『明日の日本を予測する技術』(講談社+α新書)がある。