防衛省が来年度に締結する装備品契約額のうち、海外調達は過去最高の9417億円に上る見通しだ。米国との政府間取引である有償軍事援助(FMS)などで高性能装備品の輸入が増えているためで、契約額の3割弱を占める。一方で国内調達額は伸びていない。防衛事業から撤退する国内企業も出ており、防衛産業の維持を危ぶむ声も出ている。
防衛省によると、2019年度当初予算案に計上した装備品の調達額は、次年度以降に分割払いする分も含めた契約額ベースで3兆4138億円。このうち、外国通貨での契約額は9417億円(27.6%)に上り、18年度当初予算の5620億円(18.8%)から大幅に増加する。商社を通して日本円で輸入するケースもあり、実際の輸入額はさらに膨らむ可能性がある。
装備品の海外調達は年間契約額の10%前後で推移していたが、F35ステルス戦闘機の取得が始まった12年度以降、FMSによる調達が急増したことに伴い、上昇傾向にある。来年度はさらに陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」や早期警戒機E2Dのまとめ買いなどの契約が重なり、FMSの契約だけで7013億円になる見通しだ。
一方、国内企業との装備品契約額はこの10年間、年2兆5000億円前後で横ばいの状態。第2次安倍政権下で防衛費は7年連続で増加しているが、増加分をほぼ海外企業に吸い取られている形だ。
国内企業が海外メーカーに技術使用料を払って海外の装備品を生産する「ライセンス国産」も近年は機密情報の流出を恐れる米国などが認めない傾向にあり、国内の防衛関連企業が生産に関与できる機会は減っている。
防衛省幹部は「国内で一から開発すると、時間やコストがかかる。中国の軍拡や北朝鮮の核・ミサイル開発が進む中、早期に高性能の装備品を取得しようとすればFMSに頼らざるを得ない」と話す。だが、別の幹部は「完成品の輸入が増えれば国内企業の技術水準が落ち、装備品の整備基盤を十分に維持できなくなる。自衛隊の運用にも影響が出かねない」と漏らす。【前谷宏】
国内の防衛産業再編進まず 建機大手のコマツは撤退
海外からの装備品調達が増加する中、国内の防衛関連企業には防衛事業の縮小・廃止の動きが出ている。防衛省の2016年のアンケートでは、取引先の撤退などにより部品調達が滞った経験がある企業は約7割に上った。大手でもコマツ(東京)が昨秋、自衛隊車両の新規開発から撤退する意向を防衛省に伝えた。
コマツは自衛隊が使う装甲車や弾薬の主要調達先で、昨年度の国内企業別納入額は7位の約280億円。しかし、14年度に同社が受注した装輪装甲車の開発事業で、試作車の装甲などに欠陥が見つかり、昨年7月に開発を中止した。防衛省は同社に小型の軽装甲機動車の後継車開発なども打診したが、断られているという。
欧米では1990年代以降、軍需産業の大規模な再編が進み、競争力の確保が図られたが、日本の防衛関連企業は再編が進まず、売上高に占める防衛部門の割合は平均3%程度にとどまっている。
コマツの広報担当者は「受注数量が減り、開発コストに見合う利益が得られない。技術者の確保も厳しい状況だ」と話す。別の防衛産業の関係者は「防衛費の大幅な伸びが期待できない中、利益の少ない防衛部門は企業の足を引っ張る存在になりつつある。経営判断として防衛事業から手を引く企業は今後も続くのでは」と話した。【前谷宏】
毎日新聞
2019年3月16日 21時41分
https://mainichi.jp/articles/20190316/k00/00m/010/177000c.amp