毎月勤労統計の不正問題で、厚生労働省の特別監察委員会(委員長=樋口美雄(よしお)労働政策研究・研修機構理事長)は二十七日、会合を開き、再調査結果の報告書を取りまとめた。同省幹部らによる隠蔽(いんぺい)の指示はなかったとして一月に発表した報告書と同様、改めて組織的隠蔽を認定しなかった。野党が反発を強めるのは必至だ。
特別監察委は同日午後、報告書を根本匠厚労相に提出した。
報告書は、担当課のトップを含む複数の職員が関係し、組織としての独自の判断や怠慢による不適切な取り扱いがあったとは認めた。同時に、厚労省の公的統計の意義や重要性に対する意識の低さが際立っており、幹部職員の多くが統計に無関心だと指摘した。
樋口委員長が根本氏に報告書を手渡した後、同省内で記者会見し、事実認定や評価を説明する。
不正問題について監察委は一月二十二日、報告書を公表した。しかし関係者への聴取の約七割を身内の厚労省職員が実施し、報告書原案も職員が作成したことが発覚。与野党が「お手盛り」「第三者性を高めるべきだ」と相次いで批判し、公表からわずか三日後に根本氏が再調査を表明した。
弁護士による事務局を設け、監察委はこれまでに職員ら五十九人を聴取。報告書は、幹部が不正を隠すよう指示をした事実は認められないとして、組織ぐるみの隠蔽は否定した。
◆報告書のポイント
毎月勤労統計の不正問題を巡る厚生労働省の特別監察委員会の報告書ポイントは次の通り。
一、幹部が不正を隠すよう指示をした事実は認められないとして組織的隠蔽を改めて否定
一、担当課トップを含む複数の職員が関係。組織としての独自の判断や怠慢による不適切な取り扱いがあった
一、公的統計の意義や重要性に対する意識の低さが際立ち、幹部職員の多くが統計に無関心
◆「課の責任」に終始 再発防止疑問
<解説> 毎月勤労統計の不正を再調査した厚生労働省の特別監察委員会は、同省による不正の「組織的隠蔽」を再び否定した。長年、複数の担当者が不正を知っていた事実は認めながら、部長級以上の幹部から指示がなかったことを理由に、隠蔽行為自体を否定する論理は分かりにくく、国民の理解が得られるかは疑問だ。不正と隠蔽を許す体質を認め、反省しない限り、同様の不祥事が繰り返される懸念は拭えない。
監察委の追加報告書は、担当課の不正を「課独自の判断・怠慢」だと指摘。隠蔽は認めず「不適切な取り扱い」と表現した。部長級以上の幹部についても、二〇一七年から一八年にわたる冬に、当時の政策統括官(部長級)が担当室長から不正の報告を受けた際、室長に対応の修正を指示したことを理由に「隠蔽があったと評価できない」と結論づけた。
だが、統括官の指示は実施されず、不正の発覚は約一年後の一八年末まで遅れた。追加報告書には、不正が続いた背景として幹部職員の「放置」や「無関心」を指摘する記述が目立つ。不正を知りながら「放置」するのは、隠蔽への加担に等しい行為と言えるが、追加報告からはそうした問題意識は見いだしにくい。
監察委は再発防止策として、幹部を含めた「統計の基本知識の習得や意識改革の徹底」を求め「自助努力と自浄作用」を促した。だが不正を隠そうとした事実を省全体で認め、反省しない限り、自浄作用が働くとは思えない。 (新開浩)
<厚生労働省の統計不正問題> 事業所の賃金や労働時間を把握する「毎月勤労統計」を巡り、厚労省が調査方法を不正に変えた問題。2004年から、全数調査が必要な東京都内の500人以上の事業所で抽出調査に変え、3分の1程度しか調べていなかった。このため、統計を基に算出する雇用保険や労災保険などの給付額が本来より低くなり、延べ約2000万人が過少支給となった。学歴や勤続年数といった労働者の属性別に賃金を把握する「賃金構造基本統計」でもルールと異なる郵送調査をしていた。
東京新聞
2019年2月27日 夕刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201902/CK2019022702000290.html
特別監察委は同日午後、報告書を根本匠厚労相に提出した。
報告書は、担当課のトップを含む複数の職員が関係し、組織としての独自の判断や怠慢による不適切な取り扱いがあったとは認めた。同時に、厚労省の公的統計の意義や重要性に対する意識の低さが際立っており、幹部職員の多くが統計に無関心だと指摘した。
樋口委員長が根本氏に報告書を手渡した後、同省内で記者会見し、事実認定や評価を説明する。
不正問題について監察委は一月二十二日、報告書を公表した。しかし関係者への聴取の約七割を身内の厚労省職員が実施し、報告書原案も職員が作成したことが発覚。与野党が「お手盛り」「第三者性を高めるべきだ」と相次いで批判し、公表からわずか三日後に根本氏が再調査を表明した。
弁護士による事務局を設け、監察委はこれまでに職員ら五十九人を聴取。報告書は、幹部が不正を隠すよう指示をした事実は認められないとして、組織ぐるみの隠蔽は否定した。
◆報告書のポイント
毎月勤労統計の不正問題を巡る厚生労働省の特別監察委員会の報告書ポイントは次の通り。
一、幹部が不正を隠すよう指示をした事実は認められないとして組織的隠蔽を改めて否定
一、担当課トップを含む複数の職員が関係。組織としての独自の判断や怠慢による不適切な取り扱いがあった
一、公的統計の意義や重要性に対する意識の低さが際立ち、幹部職員の多くが統計に無関心
◆「課の責任」に終始 再発防止疑問
<解説> 毎月勤労統計の不正を再調査した厚生労働省の特別監察委員会は、同省による不正の「組織的隠蔽」を再び否定した。長年、複数の担当者が不正を知っていた事実は認めながら、部長級以上の幹部から指示がなかったことを理由に、隠蔽行為自体を否定する論理は分かりにくく、国民の理解が得られるかは疑問だ。不正と隠蔽を許す体質を認め、反省しない限り、同様の不祥事が繰り返される懸念は拭えない。
監察委の追加報告書は、担当課の不正を「課独自の判断・怠慢」だと指摘。隠蔽は認めず「不適切な取り扱い」と表現した。部長級以上の幹部についても、二〇一七年から一八年にわたる冬に、当時の政策統括官(部長級)が担当室長から不正の報告を受けた際、室長に対応の修正を指示したことを理由に「隠蔽があったと評価できない」と結論づけた。
だが、統括官の指示は実施されず、不正の発覚は約一年後の一八年末まで遅れた。追加報告書には、不正が続いた背景として幹部職員の「放置」や「無関心」を指摘する記述が目立つ。不正を知りながら「放置」するのは、隠蔽への加担に等しい行為と言えるが、追加報告からはそうした問題意識は見いだしにくい。
監察委は再発防止策として、幹部を含めた「統計の基本知識の習得や意識改革の徹底」を求め「自助努力と自浄作用」を促した。だが不正を隠そうとした事実を省全体で認め、反省しない限り、自浄作用が働くとは思えない。 (新開浩)
<厚生労働省の統計不正問題> 事業所の賃金や労働時間を把握する「毎月勤労統計」を巡り、厚労省が調査方法を不正に変えた問題。2004年から、全数調査が必要な東京都内の500人以上の事業所で抽出調査に変え、3分の1程度しか調べていなかった。このため、統計を基に算出する雇用保険や労災保険などの給付額が本来より低くなり、延べ約2000万人が過少支給となった。学歴や勤続年数といった労働者の属性別に賃金を把握する「賃金構造基本統計」でもルールと異なる郵送調査をしていた。
東京新聞
2019年2月27日 夕刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201902/CK2019022702000290.html