「(安倍総理の総裁三選は)難しいだろうな。もう信頼がなくなってきたな」──息子・進次郎が37回目の誕生日を迎えた4月14日、そう断言した小泉純一郎氏(76)。安倍政権に対して厳しい言葉を口にするようになった元総理の一挙手一投足に再び注目が集まっている。
そんな中、小泉政権の中核を担った面々が赤坂の料亭に集結。小泉純一郎氏を中心に、そこで話し合われたこととは……。小泉氏の初の回想録となる『決断のとき』の取材・構成を担当した、ノンフィクションライター・常井健一氏の特別レポート。
■小泉が目をとめた時事川柳
小泉純一郎は、目覚まし時計を使わない。
自然に目を覚まし、朝昼兼用の食事をしながら、ゆったり新聞数紙をめくる。そのため、午前中には約束を入れないようにしている。
それが、76歳のセカンドライフだ。
「いまだに夢の中で、朝3時に目覚ましが鳴ることがあるんだ。総理時代の5年5ヵ月間、毎日そうだったから、思い出すんだろう」
小泉はそう話している。
3月14日、ホワイトデー。
その日の朝も、小泉はいつものように起き、クラシック音楽を大音量で聴きながら、新聞をめくっていた。そして、いつものように、読売新聞14面の時事川柳コーナーを眺めていると、こんな一句が目に留まった。
〈切る尻尾使い果たしてお尻に火〉
「猫猫山」という俳号を名乗る、千葉県流山市在住の読者が投稿したものだった。
その句が「きょうの秀作」に選ばれていたわけではない。財務省の不祥事が与える安倍政権の激震ぶりを風刺した川柳は、6作品のうち他に2つも並んでいた。
〈財務省金庫番より文書番〉
〈ポスト安倍時期尚早を書き換える〉
だが、小泉には〈切る尻尾〜〉が一番うまいと思えた。
「財務省」や「安倍」という直接的な表現を使わずに、今の政局を万人に想起させる巧みな隠喩が気に入ったのだろう。小泉自身も2009年の政界引退後、原発問題以外の政局をストレートに論じることは控えてきた。
ところが、前出の川柳に出会う前の晩、小泉はその禁を破った。
3月13日、20時からはじまった「プライムニュース」(BSフジ)の冒頭、司会の反町理から佐川宣寿国税庁長官の電撃辞任についての質問が直球で投げられると、元総理はフルスイングで打ち返した。
「安倍総理も、麻生財務大臣も、『この人事おかしいんじゃないか』という質問に『適材適所の人事です』と言い切ったよ。これにはあきれたね、判断力がどこか、おかしくなっているんじゃないか」
小泉は、これまで頑なに拒んできたテレビの生放送に、引退後初めて出演した。それは、フジテレビからの取材依頼に「持論の原発ゼロを一人でとことん語れる」という条件があったからだ。財務省の文書改ざん問題が浮上し、佐川が辞任した直後だったが、原発以外のことについてコメントするつもりは毛頭なかった。
しかし、かつて「劇場型政治」と呼ばれた政権を指揮した男である。今でも人前に出ると「パフォーマー」の血が騒ぐのだろう。フジテレビのスタジオで多くのカメラを向けられた小泉は、レンズの向こうにいる数百万人の姿を想像し、「みんなが期待する小泉純一郎」を演じきった。
「総理が国会で『私や妻が森友学園と関係があったら、総理も国会議員も辞めます』と言ったことで、財務省の官僚が『これは大変なことだ』となった。関係していることを知っているからね。総理の答弁に合わせなければいかんというので、この改ざんが始まったと私は見ているんだ。忖度したんだよ」
無論、「元総理の箴言」は、物議を醸した。翌朝の産経新聞は、小泉の似顔絵入りで大きく報じた。そんな紙面を眺めているうちに出会ったのが、政権批判を「オブラート」に包んだ川柳だったというわけだ。
■「『もう引き際』って、本当に言ったのか?」
それから、1ヵ月後。4月18日夜、小泉は東京・赤坂にある行きつけの小料理店「津やま」で、山崎拓(81)と武部勤(77)と向き合った。今や「長老」として扱われる3人が一堂に会すのは、ちょうど1年ぶりだった。
5年5ヵ月に及んだ小泉政権時代、自民党幹事長として党運営を担ったのが、山崎、武部、そして安倍である。昨年は、たまたま同じ店に居合わせた安倍が飛び入り参加したおかげで、幹事長経験者3人が全員揃った。マスコミは「小泉政権同窓会」と名付けた。その内幕は、『決断のとき』(集英社新書)に詳しく記録しておいた。
続く
現代ビジネス
2018.5.1
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55506
そんな中、小泉政権の中核を担った面々が赤坂の料亭に集結。小泉純一郎氏を中心に、そこで話し合われたこととは……。小泉氏の初の回想録となる『決断のとき』の取材・構成を担当した、ノンフィクションライター・常井健一氏の特別レポート。
■小泉が目をとめた時事川柳
小泉純一郎は、目覚まし時計を使わない。
自然に目を覚まし、朝昼兼用の食事をしながら、ゆったり新聞数紙をめくる。そのため、午前中には約束を入れないようにしている。
それが、76歳のセカンドライフだ。
「いまだに夢の中で、朝3時に目覚ましが鳴ることがあるんだ。総理時代の5年5ヵ月間、毎日そうだったから、思い出すんだろう」
小泉はそう話している。
3月14日、ホワイトデー。
その日の朝も、小泉はいつものように起き、クラシック音楽を大音量で聴きながら、新聞をめくっていた。そして、いつものように、読売新聞14面の時事川柳コーナーを眺めていると、こんな一句が目に留まった。
〈切る尻尾使い果たしてお尻に火〉
「猫猫山」という俳号を名乗る、千葉県流山市在住の読者が投稿したものだった。
その句が「きょうの秀作」に選ばれていたわけではない。財務省の不祥事が与える安倍政権の激震ぶりを風刺した川柳は、6作品のうち他に2つも並んでいた。
〈財務省金庫番より文書番〉
〈ポスト安倍時期尚早を書き換える〉
だが、小泉には〈切る尻尾〜〉が一番うまいと思えた。
「財務省」や「安倍」という直接的な表現を使わずに、今の政局を万人に想起させる巧みな隠喩が気に入ったのだろう。小泉自身も2009年の政界引退後、原発問題以外の政局をストレートに論じることは控えてきた。
ところが、前出の川柳に出会う前の晩、小泉はその禁を破った。
3月13日、20時からはじまった「プライムニュース」(BSフジ)の冒頭、司会の反町理から佐川宣寿国税庁長官の電撃辞任についての質問が直球で投げられると、元総理はフルスイングで打ち返した。
「安倍総理も、麻生財務大臣も、『この人事おかしいんじゃないか』という質問に『適材適所の人事です』と言い切ったよ。これにはあきれたね、判断力がどこか、おかしくなっているんじゃないか」
小泉は、これまで頑なに拒んできたテレビの生放送に、引退後初めて出演した。それは、フジテレビからの取材依頼に「持論の原発ゼロを一人でとことん語れる」という条件があったからだ。財務省の文書改ざん問題が浮上し、佐川が辞任した直後だったが、原発以外のことについてコメントするつもりは毛頭なかった。
しかし、かつて「劇場型政治」と呼ばれた政権を指揮した男である。今でも人前に出ると「パフォーマー」の血が騒ぐのだろう。フジテレビのスタジオで多くのカメラを向けられた小泉は、レンズの向こうにいる数百万人の姿を想像し、「みんなが期待する小泉純一郎」を演じきった。
「総理が国会で『私や妻が森友学園と関係があったら、総理も国会議員も辞めます』と言ったことで、財務省の官僚が『これは大変なことだ』となった。関係していることを知っているからね。総理の答弁に合わせなければいかんというので、この改ざんが始まったと私は見ているんだ。忖度したんだよ」
無論、「元総理の箴言」は、物議を醸した。翌朝の産経新聞は、小泉の似顔絵入りで大きく報じた。そんな紙面を眺めているうちに出会ったのが、政権批判を「オブラート」に包んだ川柳だったというわけだ。
■「『もう引き際』って、本当に言ったのか?」
それから、1ヵ月後。4月18日夜、小泉は東京・赤坂にある行きつけの小料理店「津やま」で、山崎拓(81)と武部勤(77)と向き合った。今や「長老」として扱われる3人が一堂に会すのは、ちょうど1年ぶりだった。
5年5ヵ月に及んだ小泉政権時代、自民党幹事長として党運営を担ったのが、山崎、武部、そして安倍である。昨年は、たまたま同じ店に居合わせた安倍が飛び入り参加したおかげで、幹事長経験者3人が全員揃った。マスコミは「小泉政権同窓会」と名付けた。その内幕は、『決断のとき』(集英社新書)に詳しく記録しておいた。
続く
現代ビジネス
2018.5.1
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55506