◆「忖度」ってどういうこと?意味がわからず怒り出すアメリカ人
外国人にうまく理解してもらえない日本語というものがある。
ビジネスで来日したアメリカ人が夜の会食の際に、「ところであの『忖度』というのはどういう意味なんだ?」と英語で訊ねてきた。
昼間の会議のときに日本人の同僚が、ビジネスの交渉相手に「そこは忖度してほしい」とジョークで言い、その場が大笑いになったのを覚えていて、一体全体どんなジョークだったのかを理解したかったようだ。
慌ててスマホで調べると「conjecture」(推測する)とか「guess」(言い当てる)といった言葉が出てくる。
しかしそれを伝えても、アメリカ人の彼にはピンと来ないというのだ。
きちんとしたアメリカの大学を出てグローバル企業でそれなりの地位にある人間が「わからない」というのは、何か根本的な文化の相違か意見の相違があるからに違いない。
面白そうだということで、議論になった。
それでまず、日本の国会で起きた議論を正確に伝えてみることになった。
「要は、9億5000万円の価値がある国有地を払い下げる際に、色々な国会議員が問い合わせをしてきたんだよ」
「何も要求したわけではないのか?」
「何も要求してはいない。とにかく問い合わせをしただけ。それから買い取る当事者も、総理夫人がこの土地を気に入っている話をした」
「総理夫人がそう言ったのか」
「いや、言っていない。それで役人は大物の名前がこれだけ出るのだからと8億2000万円値引きして、1億3000万円で売ることにした。これが忖度だ」
それで彼が怒り出した。
ここは話が脱線するところなのだが、日本支社の同僚がビジネスの交渉相手に「忖度してほしい」と言ったことを思い出し、「わが社の誇りあるビジネスについて、そんないい加減な値引きを持ち出すのは絶対にいけない」という話になったのだ。
「いや、あれは場を和ませるジョークなんだ」ということを説明して、理解してもらった。
これはまあ、今回の記事としては、あくまでサイドストーリーである。
■政治家を慮り官僚が人生を棒に振る 外国人には理解不能な森友問題
話がいったん収まったと思ったら、周囲が「モリトモ」について詳しく説明をし始めたので、またそちらに話題が戻ってしまった。
「なぜ役人が公文書を書き換えたんだ?」というのが彼の質問。
「それが忖度というもので、偉い人が文書の内容とは違う内容の国会答弁をしたから、下の人が気を利かせて、命令されもしないのに記録を書き換え、つじつまを合わせたんだ」
「それは日本では犯罪ではないのか?」
「公文書の偽造は犯罪だから、そのことは日本でも問題になっている」
「わからない。なぜ言われてもいないのに想像だけで部下が犯罪に手を染めるんだ?大臣からの命令ではないのか?」
「大臣は命令していないんだ。しかし、誰かはわからないが、上級官僚のうちの誰かが忖度して改竄すべきだと下に命令したのだろう。一番下の方の役人は、いやいや犯罪に手を染めたと言われている」
「わからない。命令も指示もないのに、それも数年しかそのポジションにいない政治家の立場や答弁を守るために、何十年も勤め続けている上級官僚がなぜ犯罪に手を染めるのか」
彼が「わからない」というポイントを聞くと、どうも2つの文化的な違いが「理解できない」ということらしい。
1つは明確な指示なしで、阿吽の呼吸だけで政治家と官僚の間で非常に重要な政治問題の処理ができるという点だ。
アメリカなら「これをやれ。やれたら君は財務省のナンバーツーのポジションにつけてやる」みたいに、具体的な命令と見返りの提示があるという。
そんな契約関係がないと、アメリカ人は動かないというのだ。
もう1つ理解できない点は、大きな組織での汚職や悪事は、アメリカの組織の場合、上の人間が甘い汁を吸うための構造に由来するのに、日本の組織では必ずしもそうではないことだ。
なぜ、誰も得をしない今回のような案件で、役人が自分のキャリアを棒に振ってまで政治家の顔色をうかがい、想像だけで便宜を図るのかが理解できないという。
一般人には9億円で売る土地を、特別案件の場合は1億円で売る。
しかし、政治家も役人もこの件では何の見返りもない。そういう事象が理解できないのだ。
ダイヤモンドオンライン 2018.4.6
http://diamond.jp/articles/-/166176
※続きます