2018.1.31 現代ビジネス
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54252
「もちろん、決めるのはあなた達だが」
1月の初旬、中国の潜水艦が潜航したまま尖閣諸島の大正島の接続海域を航行した。これまでにないレベルの挑発行為である。日本は政府も国民も尖閣危機を騒ぐ割には、事態の深刻化を全く止めることが出来ていないし、その気配すら見えない。全くの無策、お手上げ状態なのである。何故なのか? 戦後日米外交史の専門家で、アメリカ海兵隊の基地問題担当者として沖縄で活動した経験も持つ著者が、日米両国に責任がある尖閣問題の起源を読み解く。
東ヨーロッパで考えた尖閣への教訓
つい最近、東ヨーロッパに行ってきた。スイスでシンポジウムに参加した後、まだ行ったことがなかったブルガリア、ルーマニア、モルドバを回った。
そして最後に訪れたモルドバで印象的なことがあった。この国はロシアとの間の領土問題を抱えている。ロシアが、国土の一部を実際に占拠している状況だ。
地元の大学で尖閣問題に関する講演を行ったが、そこで、50代の研究者にあった。大学の学科長だった。彼は英語が得意ではなく、長くソ連圏の教育を受けていたような人なのだろう。アメリカ人である私を警戒しているようだった。
しかし、講演の後、その態度は全く変わった。まず「ありがとう」のあと、「大変ためになった。示唆を受けた。感謝します。参考にします」といってきたのである。講演中、一所懸命メモを取っていた姿が印象に残っている。彼は彼なりに、自分の国、超大国に隣接する小さな国の国益を考えているのだと思った。
そこで改めて認識したことは、いったん、領土を隣の大国に占領されてしまうと、もう取り戻すことが出来ないということだった。この形は、北方領土の事例とよく似ている。
東欧に行く直前、中国の潜水艦が、尖閣諸島の接続水域を潜水したまま航行した。これまでにない挑発行為であり、尖閣問題が日本にとっていま最も緊張度の高い領土問題であることが改めて示された。ところが、日本政府をはじめ、政治家、国民のほとんどは無関心である。
この尖閣諸島もまた、中国に奪われてしまったら、還ってこない。そして、日本の戦後の領土問題は、北方領土に加え、韓国が1954年に武力によって獲った竹島のすべて日本にとって不幸な形で決着することになってしまう。
領土の一部でもとられると、その相手と隣接している以上、その国の主体的な外交はできなくなる。モルドバ国内では、NATO加盟を希望している声が多いが、それはロシアが絶対許さないし、その現実に、その意思を強要している。
つまり、尖閣諸島を奪われてしまうと、日本は対中国外交で主体性がなくなってしまう。中国の顔を一層立てなければならなくなるからだ。このことが歴史や他地域の国際政治に学ぶべき教訓なのである。日本は、北方領土問題と竹島問題からだけでも分かるはずだ。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54252
「もちろん、決めるのはあなた達だが」
1月の初旬、中国の潜水艦が潜航したまま尖閣諸島の大正島の接続海域を航行した。これまでにないレベルの挑発行為である。日本は政府も国民も尖閣危機を騒ぐ割には、事態の深刻化を全く止めることが出来ていないし、その気配すら見えない。全くの無策、お手上げ状態なのである。何故なのか? 戦後日米外交史の専門家で、アメリカ海兵隊の基地問題担当者として沖縄で活動した経験も持つ著者が、日米両国に責任がある尖閣問題の起源を読み解く。
東ヨーロッパで考えた尖閣への教訓
つい最近、東ヨーロッパに行ってきた。スイスでシンポジウムに参加した後、まだ行ったことがなかったブルガリア、ルーマニア、モルドバを回った。
そして最後に訪れたモルドバで印象的なことがあった。この国はロシアとの間の領土問題を抱えている。ロシアが、国土の一部を実際に占拠している状況だ。
地元の大学で尖閣問題に関する講演を行ったが、そこで、50代の研究者にあった。大学の学科長だった。彼は英語が得意ではなく、長くソ連圏の教育を受けていたような人なのだろう。アメリカ人である私を警戒しているようだった。
しかし、講演の後、その態度は全く変わった。まず「ありがとう」のあと、「大変ためになった。示唆を受けた。感謝します。参考にします」といってきたのである。講演中、一所懸命メモを取っていた姿が印象に残っている。彼は彼なりに、自分の国、超大国に隣接する小さな国の国益を考えているのだと思った。
そこで改めて認識したことは、いったん、領土を隣の大国に占領されてしまうと、もう取り戻すことが出来ないということだった。この形は、北方領土の事例とよく似ている。
東欧に行く直前、中国の潜水艦が、尖閣諸島の接続水域を潜水したまま航行した。これまでにない挑発行為であり、尖閣問題が日本にとっていま最も緊張度の高い領土問題であることが改めて示された。ところが、日本政府をはじめ、政治家、国民のほとんどは無関心である。
この尖閣諸島もまた、中国に奪われてしまったら、還ってこない。そして、日本の戦後の領土問題は、北方領土に加え、韓国が1954年に武力によって獲った竹島のすべて日本にとって不幸な形で決着することになってしまう。
領土の一部でもとられると、その相手と隣接している以上、その国の主体的な外交はできなくなる。モルドバ国内では、NATO加盟を希望している声が多いが、それはロシアが絶対許さないし、その現実に、その意思を強要している。
つまり、尖閣諸島を奪われてしまうと、日本は対中国外交で主体性がなくなってしまう。中国の顔を一層立てなければならなくなるからだ。このことが歴史や他地域の国際政治に学ぶべき教訓なのである。日本は、北方領土問題と竹島問題からだけでも分かるはずだ。