籠池夫妻を逮捕 事件本丸は地検の身内“財務省”
AERA:2017.8.8 07:00
https://dot.asahi.com/aera/2017080700066.html
「安倍一強」が崩れ、「忖度」する相手も定まらない。「秋霜烈日」の魂が喘いでいる。
国は、首相官邸は、捜査機関はいったい何をしたいのか。回転軸もないのに無理やり回し始めたコマが、無軌道に迷走を続けている。
大阪府豊中市の国有地払い下げに端を発した学校法人「森友学園」を巡る一連の疑惑で、大阪地検特捜部は前理事長の籠池泰典(64)、妻の諄子(60)の両容疑者を逮捕した。
3月29日に「補助金適正化法違反」で告発されてから約4カ月後の7月31日、2人が身柄を拘束された容疑は「詐欺」だった。
●加計学園疑惑のさなか
容疑事実は、昨年2月に小学校の建設工事費などを水増しした虚偽の契約書を提出し、今年2月までに国の補助金5644万円をだまし取った疑い。
小学校は安倍晋三首相夫人の昭恵氏を「名誉校長」として今春開学予定だった。
建設工事を巡っては学園が「約23億円」「約15億円」「約7億円」とする3種類の契約書を国や府に提出していたことが発覚し、告発の端緒になっていた。
しかし、あれから4カ月。その間、首相を巡る疑惑の焦点は「腹心の友」が経営する加計学園(岡山市)が愛媛県今治市に開学を目指し、国家戦略特区事業指定を受けた岡山理科大学獣医学部の問題へと移り、国会で閉会中審査まで行われた。
その疑惑が一層深まった中で、森友問題を蒸し返すような逮捕劇。
しかも、特別法の補助金適正化法違反(5年以下の懲役など)より重い、刑法の詐欺罪(10年以下の懲役)を適用したことにも疑問の声が上がっている。
「国の補助金は本来、当局による十分な審査を経て支給されるものであり、不正な交付を行った国側にも問題がなかったとは言えない──」
籠池夫妻逮捕の翌日、自らのブログに今回の逮捕がいかに“常識外れ”だったかを、そう綴った元検事の郷原信郎弁護士は小誌の取材にこう語る。
「本気で行う捜査であれば密行性が重要なのに、告発受理のマスコミ各社の報道は、明らかに検察側の情報で行われた。
そこに応援を得て大捜査態勢を敷いて、このまま終わるわけにはいかなかったのでしょう。
慎重論も含め、内部でも相当に迷走した末に身柄まで取ってしまった。在宅の任意捜査では時間もかかるが、常識的に考えて思いとどまるべきです。そもそも着手してはいけなかった事件」
●半ば“身内”への捜査
それもそうだろう。既に補助金は全額返還されている。国が審査して交付した補助金を、国の命令で返還しているのだ。郷原氏だけでなく、起訴することも困難と指摘する専門家も多い。
一方で、一連の疑惑の端緒になった、近畿財務局職員がごみ撤去費用を過大に見積もり約8億円も値引きして国有地を払い下げた事件の「本丸」についての捜査は進んでいるのだろうか。
「籠池夫妻をどうするかに汲々として、とてもその方向に進んでいるとは思えない。
背任罪は、職員が自己または第三者の利益を図る故意性の立証が必要。忖度(そんたく)みたいなあいまいな話では到底刑事事件的な着地は無理です」(郷原氏)
『国策捜査』などの著書があるジャーナリストの青木理氏はさらに検察サイドの「忖度」についてこう言及する。
「補助金不正受給だけで終わるなら、大阪府警捜査2課が担当すれば十分な事件。
証拠改竄事件で信用が地に落ちたとはいえ、地検特捜部が乗り出したのであれば、財務省や近畿財務局に家宅捜索ぐらいはかけないと存在意義にもかかわる。
しかし、地検の事件の端緒は従来国税からもたらされることも多く、半ば身内でもある相手への捜査には心理的障壁は高い」
現在の国税庁長官は、財務省理財局長時代に森友学園関連の記録書類を「全て廃棄」したと国会答弁した佐川宣寿氏だ。
「一強内閣」の名をほしいままにした安倍内閣の支持率は森友、加計の両学園問題で失墜し、国民は「受け皿」探しに彷徨(さまよ)っている。
砂上の楼閣を支えた忖度官僚の頂に、かつて最強の捜査機関とうたわれた地検特捜がどう臨むのか。
(編集部・大平誠)
※AERA 2017年8月14−21日号
AERA:2017.8.8 07:00
https://dot.asahi.com/aera/2017080700066.html
「安倍一強」が崩れ、「忖度」する相手も定まらない。「秋霜烈日」の魂が喘いでいる。
国は、首相官邸は、捜査機関はいったい何をしたいのか。回転軸もないのに無理やり回し始めたコマが、無軌道に迷走を続けている。
大阪府豊中市の国有地払い下げに端を発した学校法人「森友学園」を巡る一連の疑惑で、大阪地検特捜部は前理事長の籠池泰典(64)、妻の諄子(60)の両容疑者を逮捕した。
3月29日に「補助金適正化法違反」で告発されてから約4カ月後の7月31日、2人が身柄を拘束された容疑は「詐欺」だった。
●加計学園疑惑のさなか
容疑事実は、昨年2月に小学校の建設工事費などを水増しした虚偽の契約書を提出し、今年2月までに国の補助金5644万円をだまし取った疑い。
小学校は安倍晋三首相夫人の昭恵氏を「名誉校長」として今春開学予定だった。
建設工事を巡っては学園が「約23億円」「約15億円」「約7億円」とする3種類の契約書を国や府に提出していたことが発覚し、告発の端緒になっていた。
しかし、あれから4カ月。その間、首相を巡る疑惑の焦点は「腹心の友」が経営する加計学園(岡山市)が愛媛県今治市に開学を目指し、国家戦略特区事業指定を受けた岡山理科大学獣医学部の問題へと移り、国会で閉会中審査まで行われた。
その疑惑が一層深まった中で、森友問題を蒸し返すような逮捕劇。
しかも、特別法の補助金適正化法違反(5年以下の懲役など)より重い、刑法の詐欺罪(10年以下の懲役)を適用したことにも疑問の声が上がっている。
「国の補助金は本来、当局による十分な審査を経て支給されるものであり、不正な交付を行った国側にも問題がなかったとは言えない──」
籠池夫妻逮捕の翌日、自らのブログに今回の逮捕がいかに“常識外れ”だったかを、そう綴った元検事の郷原信郎弁護士は小誌の取材にこう語る。
「本気で行う捜査であれば密行性が重要なのに、告発受理のマスコミ各社の報道は、明らかに検察側の情報で行われた。
そこに応援を得て大捜査態勢を敷いて、このまま終わるわけにはいかなかったのでしょう。
慎重論も含め、内部でも相当に迷走した末に身柄まで取ってしまった。在宅の任意捜査では時間もかかるが、常識的に考えて思いとどまるべきです。そもそも着手してはいけなかった事件」
●半ば“身内”への捜査
それもそうだろう。既に補助金は全額返還されている。国が審査して交付した補助金を、国の命令で返還しているのだ。郷原氏だけでなく、起訴することも困難と指摘する専門家も多い。
一方で、一連の疑惑の端緒になった、近畿財務局職員がごみ撤去費用を過大に見積もり約8億円も値引きして国有地を払い下げた事件の「本丸」についての捜査は進んでいるのだろうか。
「籠池夫妻をどうするかに汲々として、とてもその方向に進んでいるとは思えない。
背任罪は、職員が自己または第三者の利益を図る故意性の立証が必要。忖度(そんたく)みたいなあいまいな話では到底刑事事件的な着地は無理です」(郷原氏)
『国策捜査』などの著書があるジャーナリストの青木理氏はさらに検察サイドの「忖度」についてこう言及する。
「補助金不正受給だけで終わるなら、大阪府警捜査2課が担当すれば十分な事件。
証拠改竄事件で信用が地に落ちたとはいえ、地検特捜部が乗り出したのであれば、財務省や近畿財務局に家宅捜索ぐらいはかけないと存在意義にもかかわる。
しかし、地検の事件の端緒は従来国税からもたらされることも多く、半ば身内でもある相手への捜査には心理的障壁は高い」
現在の国税庁長官は、財務省理財局長時代に森友学園関連の記録書類を「全て廃棄」したと国会答弁した佐川宣寿氏だ。
「一強内閣」の名をほしいままにした安倍内閣の支持率は森友、加計の両学園問題で失墜し、国民は「受け皿」探しに彷徨(さまよ)っている。
砂上の楼閣を支えた忖度官僚の頂に、かつて最強の捜査機関とうたわれた地検特捜がどう臨むのか。
(編集部・大平誠)
※AERA 2017年8月14−21日号