従業員の労働時間が実態より少なく記録されているとして、大手光学機器メーカー「ニコン」の熊谷製作所(埼玉県熊谷市)に、熊谷労働基準監督署が改善措置を求める指導をしていたことが分かった。同製作所に勤めていた元社員の40代男性は、月に150〜200時間の残業があったと証言。同製作所ではかつて派遣社員が過重労働で自殺しており、「今でも苦しんでいる人がたくさんいる」と訴えた。(竹谷直子)
◆労基署が「労働時間の過少申告」改善を指導
男性が東京新聞の「ニュースあなた発」に情報を寄せた。ニコンの馬立稔和代表取締役宛ての同労基署の指導票によると、労基署は6月に「退勤時間からPCのログオフ時刻までに生じた時間の乖離(かいり)理由について、自己研さんに要した時間を考慮した上でも合理的に説明できない状況が認められる」とし、労働時間の過少申告がないように徹底を求めた。
男性は製品開発の担当をしていたが、2023年10月ごろから残業時間が急増。「課長から残業時間を数十時間以内に抑えろと指示され、月に100時間近くがサービス残業だった」と明かした。不眠などで徐々に体調が悪化し、2024年3月にうつ病と診断された。長時間労働の解消を社内で訴えてきたが、改善しないのをみて退職したという。
同製作所では1999年、派遣社員上段勇士さん=当時(23)=が、過重労働によるうつ病が原因で自殺。最高裁まで争い、2011年、ニコンと派遣会社の責任が認められた。
◆「さまざまな理由で会社を辞められない人がいる」
男性によると、同じチームだった役職者も過重労働で休職するなど、違法な残業がまん延していたという。「2021年には同じチームの同僚が亡くなったが、かん口令が敷かれていた」と明かす。「さまざまな理由があって、会社を辞められない人もいる。うつ病や過労死が心配。会社には社員の安全配慮義務があり、法律を守ってほしい」と話した。
日本労働弁護団幹事長の佐々木亮弁護士はニコンについて「過労死を引き起こした原因に向き合っていない」と指摘。「長時間労働が文化のようになっている。経営陣が違法な労働をさせないように具体的に動くべきだ」と話した。
ニコン広報は取材に対し、「関係各所と調整・協議の上、誠実に対応する。詳細について、これ以上のコメントは控える」とした。
国の過労死防止対策 2014年に過労死等防止対策推進法が成立。過労死防止を「国の責務」とした。2015年に電通の新入社員だった高橋まつりさん=当時(24)=が過労自死したことをきっかけに、罰則付きの時間外労働(残業)の上限規制が2019年に初めて導入された。しかし、過労死はなくならず近年、労災申請件数は増加傾向にある。
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◆長時間労働やパワハラで…繰り返される労働災害(以下有料版で,残り 637文字)
東京新聞 2024年12月29日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/376580