【ジョン・ミッチェル特約通信員】ハリウッド映画「GODZILLA ゴジラ」(2014年)の製作に協力した米国防総省が広島の原爆被害を取り上げた途中段階の脚本に抗議し、製作者側がせりふを削除していたことが分かった。同省は協力打ち切りを持ち出して圧力をかけていた。
■渡辺謙さんのシーンを問題視
同省は俳優の渡辺謙さんが演じる科学者が原爆投下に触れるせりふを「完全に不必要で不当だ」と批判。高官は「もしこれが広島と長崎に原爆を投下した決定への謝罪や疑問視を意味するなら、そこで終わりだ」と、協力撤回の意向を内部文書に記していた。
米ジョージア大学のロジャー・スタール教授(コミュニケーション論)が、バージニア州の海兵隊図書館で関連文書を入手した。文書によると、映画を製作したレジェンダリー・ピクチャーズ社は国防総省との交渉で、米軍機や艦船の撮影許可を得る代わりに、脚本の点検を受けることに合意していた。
同省が問題視したのは、渡辺さん演じる科学者が広島で被爆した父の体験を語るくだり。本紙が入手した12年6月段階の脚本では、せりふは約1分間あり、負傷した父が学校の校庭で黒焦げの遺体に囲まれて目を覚ました様子を振り返るはずだった。
同省が13年2月に抗議し、このせりふは削除された。完成版では、科学者が原爆投下時刻の午前8時15分で針が止まった父の腕時計を米海軍司令官に見せるシーンがわずかに残るだけになった。
同省は米軍をよりよく見せようと、脚本全体に注文を付けた。主人公の海軍兵をもっと「好人物」に描くことや、兵士の死者を減らすことを求め、製作者は全て受け入れた。
海軍と陸軍は製作に全面協力し、空母での撮影も許可した。映画は興行的に成功し、世界で5億3千万ドルの収入があった。
オリジナル版の特撮怪獣映画「ゴジラ」(1954年)は、二つの原爆投下や第五福竜丸の被ばくをもたらした水爆実験を背景に、反核のメッセージを込めていた。同省もレジェンダリー社も、原爆に関するせりふが削除された経緯を尋ねる本紙の質問に答えなかった。
沖縄タイムズ 2023/01/21
https://nordot.app/989318153858105344