あの暴力団事務所跡に「希望のまち」 地域の人を「なんちゃって家族」に 北九州市、複合施設づくりへ寄付募る
かつて暴力団が拠点としていた地域に、ホームレス支援など福祉と共生の拠点となる複合施設をつくる「希望のまちプロジェクト」が北九州市で進んでいる。単身世帯が増える中、地域の人たちが大きな家族のように助け合って生きる構想で、北九州をモデルに全国に広めることを目指す。プロジェクトでは建設費の一部、3億円を集めようと、ふるさと納税などを通じた寄付を呼びかけている。 (神谷円香)
希望のまちプロジェクト 2020年4月、特定危険指定暴力団工藤会の本部事務所跡地を抱樸が民間企業から買い受け、抱樸ほうぼくや北九州市社会福祉協議会などで構成するプロジェクトが本格始動。土地の購入資金1億3000万円を寄付などで集め、22年3月に正式に取得した。24年10月完成を目指す施設の建設費は10億円で、そのうち行政の補助を受けない事業となる部分、3億円の寄付を23年3月末まで募っている。市へのふるさと納税を通じての寄付も可能で、23年1月29日まで受け付け中。詳細はプロジェクトのウェブサイトへ。
「人を支えるのを家族に全部押し付けて、ヤングケアラーなどの問題が出てきた。その解決が希望のまちの『なんちゃって家族』です」
プロジェクトの事務局を担う市内の認定NPO法人「抱樸」の奥田知志ともし理事長(59)が15日、横浜市で講演し、構想をそう語った。1990年に牧師として北九州市に赴任して以降、ホームレスや居場所のない子どもたちに寄り添ってきた。
2024年に建設開始予定の複合施設は4階建て。3、4階はさまざまな事情で日常生活を営むのが困難な人全てを対象とする生活保護法上の「救護施設」で、プロジェクトが目指す「一人も取り残されないまち」に必要な場所だ。現在は、完成までの交流施設としてプレハブが立っている。
一方、多くの人が行き交う場を想定する1階と2階の一部は、地域交流スペースやさまざまな悩みを聞く相談所、子どもの学習支援や地域からボランティアを募るセンターなどを設ける。これらの機能は、行政の事業に当てはめて補助を受けると対象者や用途が限られ、制度のはざまでこぼれ落ちる人を助けられない。寄付を求めているのはこの部分の建設費だ。
根底にあるのは、奥田さんが提唱する「伴走型支援」という人への接し方。問題解決型ではなく関係をつなぎ留めることを重視し、期間を定めず継続的に関わる支援の在り方だ。
奥田さんは講演で「人をもう一度生きようと思わせるのは何か。人とのつながりの中で意欲が湧く時を待つしかない」と説明。「施設もモノでしかない。どれだけの人が関わり、物語にできるかが勝負」と語った。
講演では、高校卒業まで北九州市で暮らした小説家平野啓一郎さん(47)と対談もした。平野さんは、家庭環境などに問題のある子どもが暴力団に居場所を得てしまう土地柄や、伴走型支援の必要性を指摘。一人の中には対人関係や環境ごとに異なる人格が複数あると捉える「分人主義」を提唱する立場から、「『場所ごとにいろんな自分を生きている』と相対化できると、『生きていて結構楽しい自分もいる』などと客観視できる。どこかに居場所を、という時に希望のまちのような場所が機能してくれることを願っている」と話した。 (神谷円香)
東京新聞 2022年12月28日 12時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/222506