警察が民間の「商業衛星」(商業目的の人工衛星)から地上を撮影した画像を販売事業者から購入し、犯罪捜査に活用していることが警察庁への情報公開請求で判明した。開示された文書によると、2016~20年度の5年間で購入は計179回、費用は計約1億950万円に上る。地上の防犯カメラをたどる“リレー捜査”は定着しているが、人工衛星を使った捜査の実績が明らかになるのは初めて。捜査で画像をどのように用いたのかは「非公表」とされ、識者からは運用の透明性を求める声が上がる。
警察庁によると、商業衛星の画像利用は01年に始まり、犯罪捜査の他に警備活動や災害対応にも使われている。都道府県警が画像が必要な日時や場所を記載して警察庁に申請し、同庁が該当する人工衛星画像の有無を販売事業者に問い合わせて購入する。22年度は2社と契約しており、衛星13基の画像を購入できる。
同庁が15年度以前の購入実績文書は不存在としたため、16~20年度分の購入実績文書に加え、運用要領などの文書を開示請求し、5種類・計92ページ分の文書が開示された。「衛星画像購入実績」の文書には購入回数や費用が記載され、犯罪捜査目的の購入は16年度32回▽17年度33回▽18年度43回▽19年度30回▽20年度41回。1回あたりの金額は最高が334万6750円、最低が8万1000円だった。どの都道府県警からの申請かは「事件が特定され、将来類似の犯罪を企図する者らに対抗手段をとられる恐れがある」として黒塗りにされた。
また運用要領のうち「高解像度衛星画像管理規程」では、画像の利用範囲を「原則として警察機関内に限る」と規定。ただし、事件の立証に必要な場合は検察庁や裁判所に提出できるとする。開示されたいずれの文書にも裁判所への捜査令状請求に関する記載はなく、任意捜査の手法で画像を取得しているとみられる。警察庁は取材に対象犯罪を「殺人などの凶悪犯罪や(不法投棄などの)環境犯罪」と回答した。
また、同庁は国が事実上の偵察衛星として運用する情報収集衛星が撮影した画像を04年以降、内閣衛星情報センターから受領していることも明らかにした。情報収集衛星の画像は特定秘密保護法の特定秘密文書に指定されており、開示請求でも受領回数などは一切開示されなかった。同庁は不開示の理由を「情報収集能力などが明らかとなり、テロなどを企図する勢力が対抗措置を講じ、警察活動に支障を及ぼす恐れがある」としている。
監視型捜査に詳しい成城大の指宿信教授(刑事訴訟法)は「人工衛星の画像が刑事裁判の証拠で提出された例は聞いたことがなく、弁護士や学者の間でも捜査に活用されていることは知られていない。警察が運用を重ねていたことに驚いている。警察任せの運用は目的が正当かチェックが働かなくなる恐れがある。17年に、令状なしでGPS(全地球測位システム)を使った捜査を最高裁が違法とした前例もあり、プライバシー保護と公金支出の観点からチェックしていく必要がある」と指摘する。【遠藤浩二】
毎日新聞 2022/9/3 05:00(最終更新 9/3 07:28)
https://mainichi.jp/articles/20220901/k00/00m/040/300000c
警察庁によると、商業衛星の画像利用は01年に始まり、犯罪捜査の他に警備活動や災害対応にも使われている。都道府県警が画像が必要な日時や場所を記載して警察庁に申請し、同庁が該当する人工衛星画像の有無を販売事業者に問い合わせて購入する。22年度は2社と契約しており、衛星13基の画像を購入できる。
同庁が15年度以前の購入実績文書は不存在としたため、16~20年度分の購入実績文書に加え、運用要領などの文書を開示請求し、5種類・計92ページ分の文書が開示された。「衛星画像購入実績」の文書には購入回数や費用が記載され、犯罪捜査目的の購入は16年度32回▽17年度33回▽18年度43回▽19年度30回▽20年度41回。1回あたりの金額は最高が334万6750円、最低が8万1000円だった。どの都道府県警からの申請かは「事件が特定され、将来類似の犯罪を企図する者らに対抗手段をとられる恐れがある」として黒塗りにされた。
また運用要領のうち「高解像度衛星画像管理規程」では、画像の利用範囲を「原則として警察機関内に限る」と規定。ただし、事件の立証に必要な場合は検察庁や裁判所に提出できるとする。開示されたいずれの文書にも裁判所への捜査令状請求に関する記載はなく、任意捜査の手法で画像を取得しているとみられる。警察庁は取材に対象犯罪を「殺人などの凶悪犯罪や(不法投棄などの)環境犯罪」と回答した。
また、同庁は国が事実上の偵察衛星として運用する情報収集衛星が撮影した画像を04年以降、内閣衛星情報センターから受領していることも明らかにした。情報収集衛星の画像は特定秘密保護法の特定秘密文書に指定されており、開示請求でも受領回数などは一切開示されなかった。同庁は不開示の理由を「情報収集能力などが明らかとなり、テロなどを企図する勢力が対抗措置を講じ、警察活動に支障を及ぼす恐れがある」としている。
監視型捜査に詳しい成城大の指宿信教授(刑事訴訟法)は「人工衛星の画像が刑事裁判の証拠で提出された例は聞いたことがなく、弁護士や学者の間でも捜査に活用されていることは知られていない。警察が運用を重ねていたことに驚いている。警察任せの運用は目的が正当かチェックが働かなくなる恐れがある。17年に、令状なしでGPS(全地球測位システム)を使った捜査を最高裁が違法とした前例もあり、プライバシー保護と公金支出の観点からチェックしていく必要がある」と指摘する。【遠藤浩二】
毎日新聞 2022/9/3 05:00(最終更新 9/3 07:28)
https://mainichi.jp/articles/20220901/k00/00m/040/300000c