世界最悪レベルの大気汚染に悩まされているインドで、庶民の足として電動自動三輪(Eリキシャ)の普及が始まっている。市場をけん引しているのは日本発のベンチャー企業「テラモーターズ」(本社・東京都港区)だ。上田晃裕社長(36)は「インドでは成長のひずみとして大気汚染などの問題が出てきている。電気自動車(EV)化を通じて国全体が幸せになるようにしたい」と意気込む。
インドでは、自転車で2人掛けの座席を引くサイクルリキシャや、ガソリンや天然ガスで走る三輪のオートリキシャがタクシー感覚で利用されている。数十ルピー(数十円)から利用でき、庶民の公共交通機関の代表だ。
だが、近年はオートリキシャや自動車の排ガスによる大気汚染が深刻化。冬には視界が悪くなり、列車や飛行機の遅延も珍しくない。こうした中、インド政府は補助金や税制面の優遇措置などを通じてEVの普及を進めており、2030年には自動二輪と自動三輪の80%をEV化するとの目標を掲げている。
テラモーターズが販売しているのは5人乗りのEリキシャで、車体価格は16万ルピー(約27万円)。最高時速は25キロで、家庭用コンセントで6~8時間充電すれば最大80キロの距離を走行できる。サイクルリキシャよりも長く走れるうえ、オートリキシャよりも燃費が安く、ドライバーは収益を上げやすい。
ただ、割高な車体価格のため初期投資がかさむのがネックだった。同社は独自のローンを用意。ドライバーは低所得者が多く、貸し付けにはリスクが伴うため、車体ごとに位置や走行距離を把握できるようにし、返済が滞ったらすぐに車両を差し押さえられる仕組みを作った。これまでに1300人がローンを組んだが、差し押さえに至ったケースはないという。
同社は17年以降、累計約5万台を販売しており、市場シェアが1位になったこともある。ただ、インドのEV化はまだ始まったばかりだ。上田さんは「普及が進めば大気汚染の解消やドライバーの収入の底上げにもつながる。充電スタンドやリサイクルなどのインフラ整備も進めて、エコシステムを作っていきたい」と語る。【金子淳】
毎日新聞 2022/8/27 09:00
https://mainichi.jp/articles/20220827/k00/00m/030/002000c