新型コロナウイルスのオミクロン株は、重症化しにくいことが明らかになってきた。何がこの変化をもたらしたのか。基礎研究の分野からは最近、ウイルスが細胞の中へ侵入していく経路がオミクロン株で大きく変わった、との報告が続いている。これが重症度の違いにかかわっているのではないか、と注目されている。
オミクロン株が細胞に侵入する経路に、ある変化が起きている――。2022年になってすぐ、そんな内容の論文が公表された。英グラスゴー大などのチームによるもので、専門家の査読前の論文だ。
「ある変化」とは何か。
ウイルスが使う二つの経路 オミクロンでは
新型コロナは、人間の細胞の表面にくっついた後、細胞の中に侵入して遺伝子を注入し、増殖していく。その侵入の経路は、少なくとも二つある、とされる。
一つ目は、細胞表面にくっついたまま、ウイルス表面と細胞表面の膜が融合する「早期」の侵入経路(@)。
もう一つは、袋のような構造に包まれながら細胞の内部にのみ込まれた後で、この袋の膜とウイルス表面が融合する「後期」の侵入経路(A)だ。
研究チームは、Aの経路を阻害する薬剤を使い、新型コロナの「スパイクたんぱく質」だけが本物の疑似ウイルスを使って実験した。
その結果、主に@の経路で侵入することが知られているアルファ株やデルタ株では薬剤の影響は、ほぼなかった。
一方、オミクロン株では細胞への侵入効率が大きく落ちた。これはオミクロン株が主にAの経路を使っていることの証拠と言える。
英国の別のグループも、本物のデルタ株やオミクロン株を使って同様の結果を示す研究を、査読前論文として公表している。
このグループはさらに、さまざまな細胞でデルタ株とオミクロン株のどちらが増えやすいか競わせる実験を行い、人間の鼻腔(びくう)の細胞ではオミクロン株のほうが増えやすく、肺の細胞(肺がん由来の細胞)ではデルタ株のほうが増えやすいことを報告している。
経路が違うと増えやすい細胞が変わる?
これまでの別の研究でも、オミクロン株はデルタ株に比べ、肺でウイルスが増えにくいという動物実験の結果が報告されている。こうしたことから、オミクロン株に感染しても重い肺炎になりにくく、重症化の報告が少ないのではないか、とみられている。
国立感染症研究所ウイルス第三部の竹田誠部長は、オミクロン株がAの経路を使っていることは、感染した際の病態にも影響を及ぼすはずだ、とみる。侵入経路が違うことで、ウイルスがどの組織の細胞に感染しやすいのか、違ってくる可能性があるためで、「オミクロン株が重症化しにくくなっていることと関係しているかもしれない」とする。
一方で、重症度を評価するにあたっては、ワクチンの接種率が高くなっていることなども踏まえる必要がある、という。
「変異株ごとの病原性の違いや、それが実際に病気の重症度にどこまで影響しているのかなどの評価は難しい」。感染者が増えるほど、重症者も増えていくため、感染の広がりには引き続き警戒が必要と考えているという。
竹田さんらのチームは@の経路に重要な細胞表面の分子「TMPRSS2」に着目し、新型コロナが増えやすい培養細胞を開発し、2020年3月に論文で報告した。この細胞は世界中で基礎研究だけでなく、検査法やワクチン、治療薬の開発に使われたという。
オミクロン株が細胞に侵入す…(以下有料版で,残り654文字)
朝日新聞 2022年1月21日 7時30分
https://www.asahi.com/articles/ASQ1M728CQ1DULBJ00W.html