「無所属」と控えめに記されたのぼりが、秋の浜風にはためく。
23日午後7時、横浜市・京急線金沢文庫駅西口。新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言下だった1月、深夜に東京・銀座のクラブに行ったことで批判を浴び、自民党離党に追い込まれた前職、松本純の顔に、苦戦の焦りがべったり張り付いていた。長らく自身の派閥で苦楽を共にした最側近の修羅場に、矢も盾もたまらず駆け付けたのが自民副総裁の麻生太郎だ。「(松本の)初当選の時から二十数年、ずっと一緒にいました。数少ない波長が合う相手です」。こう援護射撃をもらった松本。マイクを握ると「真摯(しんし)に反省、謙虚に再出発させてくださいと言い続けている」。8期目を目指す演説を、平身低頭に切りだした。
逆風は弱まる気配がない。
「銀座行くなら野毛で飲め」―。騒動後、神奈川1区内でポスターにこんな落書きが見つかった。横浜市役所にほど近い野毛は、昭和の香り漂うスナックや居酒屋が軒を連ねる歓楽街だが、コロナ禍の爪痕はいまなお深い。選挙期間中、なじみの一軒に顔を出した会社経営者の男性(41)は、銀座問題を「特権階級のつもりかよ」とばっさり。これまでは松本に1票を投じてきたが、「今回ばかりは考え直す」と言う。
自民公認候補として盤石の勝ちを収めた前回、松本は公明党の推薦を得ていたが、今回はなし。公明議員が松本と同様の銀座クラブ問題で議員辞職しただけに、「応援すれば示しがつかない」(公明関係者)と静観されているためだ。比例復活の機会も与えられない。
21日には、第2次政権で松本を国家公安委員長に起用した元首相安倍晋三が、JR桜木町駅前で「友情」の応援演説を行った。選挙ポスターには、大写しになった安倍の顔写真と「純さんをお願いします」のメッセージ。そして、松本は「自民系・無所属」を強調しつつ、謝罪行脚に徹する。第一声では、こう声を振り絞った。「何よりも許されないこの大失敗を生涯、私自身は背負っていかなければならない」
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松本に挑むのは、立憲民主党前職の篠原豪と、日本維新の会新人の浅川義治だ。
前回、そして維新に所属していた前々回の衆院選で松本に退けられ、比例で救済された篠原。敵失が追い風となっている今回を「雪辱の最大チャンス」(陣営幹部)とみる。衆院解散日の14日には、立民代表の枝野幸男が全国1発目の遊説先として横浜市に入った。アベノミクス批判などに訴えの重点を置く篠原は、前首相菅義偉の退陣の呼び水となった8月の横浜市長選を立民推薦で制した市長、山中竹春とも密に連携。19日の出陣式には、山中が「篠原先生の勝利を心から祈念する」と祝電を寄せた。
維新は、報道各社の情勢調査で公示前議席から伸ばす勢いを示している。首都圏でも勢力拡大を狙い、代表の松井一郎、前神奈川県知事で同党所属の参院議員だった松沢成文らが続々と、浅川の応援に入っている。陣営関係者は「同じ保守系として、自民の地方議員の後援者にも今回は浅川の支援に回ってくれる人がいる」と手応えを話す。
=敬称略
(前田倫之)
西日本新聞 2021/10/25 6:00
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