米カリフォルニア州のニューサム知事を紹介する記事は、彼の魅力的な外見にふれることが多い。それはこの長身で柔和な53歳の民主党の知事がハリウッド俳優のような白く輝く歯を持ち、品良く白髪が交じった髪をオールバックにしているせいだけではない。その見栄えの良さがエリート政治家を象徴しているためだ。
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だが、この民主党のプリンスのキャリアが非常に屈辱的な形で終わりを迎える可能性が出てきた。同氏の解職請求(リコール)の賛否を問う住民投票が9月14日に実施される。3年近く前、24ポイントの差をつけて当選したが、世論調査によると、同氏が解職される可能性は五分五分という。
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世界各国と比べても5位に相当する経済規模を誇り、米国で最も進歩的とされる州のかじを取るニューサム氏の後継者として有力視されているのはトランプ前米大統領を信奉し、過激な発言で注目を集めるラジオ番組の司会者、ラリー・エルダー氏だ。低所得者向けの公的医療保険「メディケイド」の縮小を求め、銃規制に反対し、気候変動を「でたらめ」だと言う人物だ。
リコール投票を企てた共和党の活動家でさえ、エルダー氏は知事には不適格だと断言している。エルダー氏と最近まで交際していた女性は、大麻で気分が高揚した同氏から銃を突きつけられたと訴えており、知事などとんでもないと言う。どうしてこんな事態になったのか。
それを説明するなら、カリフォルニアの直接民主主義の狂気ということになるだろう。他の州にも住民投票はあるが、カリフォルニアでは発議や住民投票、リコールが非常に多く、有権者は実質的に政府の第4の権力になっている。これは進歩主義時代(編集注、米国で政府浄化運動が進んだ19世紀後半〜20世紀前半の時期)に不公正な利益誘導に歯止めを掛けるためにつくられた制度だ。
だが、住民投票の実施に必要な署名数が比較的少ないことから、制度が特定の利害関係者に牛耳られてきた経緯がある。今回、この制度を利用しているのは共和党だ。通常の知事選では勝ち目のない共和党が、この制度を活用して利益を得ようとしている。有権者の12%にあたる署名を集めるだけで、晴れて民主党政権を揺るがす機会を手に入れることができるのだ。
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ニューサム氏のリコールを支持する人の大半は共和党員だが、同氏のコロナ対応には多くの無党派層や民主党支持者も不満を募らせている。ニューサム氏は「確かにこれまでの対応は大変だった」と認める。「私自身、十数社の中小企業を営んできた。人々が私に中傷や非難を向けているのは理解している」と語る。
こうした怒りの格好の標的になるのが金ぴかのプリンスの不幸だ。それゆえに、ニューサム氏が昨年、ロックダウンに違反して高級フレンチレストランで会食した件は、エリートの偽善ととらえられ、今回のリコールでこれほどまでに大きな打撃を生む結果となっているのだ。
ニューサム氏が続投できるかは民主党員の結集にかかっているが、エルダー氏もこれに一役買うだろう。ニューサム氏は女性の後援会関係者に「エルダー氏はトランプ氏でさえ赤面するようなことを言っている。重大な問題だ」と訴えかけた。
エルダー氏が後任の最有力候補になったのは、ニューサム氏が民主党内に自分に代わって当選できるような候補を確保できていないのも一因だ。だが、それ以上に別の構造的な欠陥がある。ニューサム氏が半数以上の信任票を獲得できなければ、同時に実施される投票で四十数人に上る後任候補の中で最も得票の多い候補者が知事になる。
言い換えれば、ニューサム氏が49%の信任票を獲得したとしても、得票率が20%に満たない取るに足りない人物が知事に選ばれる可能性があるということだ。今のエルダー氏の世論調査の支持率はこの水準にある。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM291IJ0Z20C21A8000000/
■ 次期知事は黒人のトランプ信奉者に?
ニューサム氏がリコールされた場合、次期知事には誰がなるのか。
フロントランナーになっているのが、地元ラジオの人気ホストのラリー・エルダー氏(69)だ。
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エルダー氏はそうしたこともあって、熱狂的なトランプ支持者だ。
同氏は、「地球温暖化はナンセンスで嘘っぱち。危機ではない。人工中絶は殺人だ。LGPTQは神をも恐れぬ罪悪だ」と切って捨てている。
コロナ禍のマスク着用やワクチン接種の義務化には猛反対、1月6日の米議会乱入を扇動したとされるトランプ氏の演説を支持している。
共和党保守本流のジョージ・W・ブッシュ第43代大統領や故ジョン・マケイン上院議員を軽蔑している。
https://news.yahoo.co.jp/articles/70f6a6c163f42aefb36712d2ead3128d26b427eb