ビシャル・メグワルさん(24)が母親を亡くして1カ月になる。だがメグワルさんの耳には、
母親の薬代を借りようと友人たちに必死にメッセージを送りつつ聞いていた、母親の苦しげな息づかいが今も残っている。
新型コロナウイルスによるパンデミックのため、霊廟や聖堂で有名なインドの都市アジュメールで暮らすメグワルさんの貯蓄は尽き、
住宅の塗装で稼いでいた所得も失われた。何よりも大きな痛手は母親を亡くしたことだ。
メグワルさんはアジュメールから電話でトムソン・ロイター財団の取材に応じ、
「こんな状況は今まで経験したことがない」と語る。
「返済しなければならないローンもあるのに、仕事がない。そして母もそばにいない」
メグワルさんと同じように、何万人ものインド国民が肉親との死別、失業、債務という三重苦にあえいでいる。
新型コロナウイルスの深刻な第2波がインドの脆弱な医療体制を崩壊に導いたためだ。
度重なるロックダウンで失業者は急増し、インドの多くの家庭では貯蓄が底を突いてしまった。
パンデミックの影響を受けた世帯は、発症した親族の治療費を自ら賄わざるを得ず、借金に頼る例も多い。
新規感染者が減少するにつれて、国内のロックダウンは解除され始めている。
だがインド経済は新型コロナにより深刻な打撃を受け、昨年来、過去最悪の景気後退を味わい、
各世帯は仕事が乏しい中で多額の債務を返済するという大きな困難を抱えている。
中央銀行であるインド準備銀行は成長予測を下方修正し、エコノミストらは、
手形不渡り率から質流れした宝飾品の額に至るまで、インド経済の苦境の程度を示すさまざまなデータを指摘している。
メグワルさんは、病に倒れた母親を何とか政府系の病院に入院させることができた。
だが、薬から酸素マスクに至るまで、治療に必要なものはすべて自分で購入しなければならなかった。
薬局はどこも通常の2倍の価格を吹っかけてきた。
「我が家は決して豊かな方ではないが、貧しくもなかった」とメグワルさんは言う。パンデミック前は、父親が建てた住宅の塗装を担当していた。
「父と私の2人で稼いでおり、十分に食べて行けた。だが昨年のロックダウンで仕事がなくなり、生き延びるための食費と光熱費などで貯蓄は使い果たした」
インドの失業率が過去12カ月間で最悪の11.9%に達する中で、メグワルさんはポーターとして働き、
辛うじて1日約300ルピー(約440円)を稼ぐだけだ。母親の治療のために借りた6万ルピー(約8万8000円)をどうやって返済するか、途方に暮れている。
メグワルさんの母親が亡くなる2週間前、墓廟タージマハルで有名なインド北部の都市アグラの街路で、
主婦レヌ・シンガルさん(45)は夫を乗せたオート三輪タクシーを急がせていた。
シンガルさんの夫は彼女の腕の中で亡くなった。幸福な家庭生活は覆され、彼女のもとには未払いの請求書、家賃の支払い、わずかな貯蓄だけが残された。
「24時間で何もかも終わってしまった。夫の熱が急に上がり、急いで複数の病院に連れて行こうとしたが、入院許可を待つ間に三輪タクシーの中で亡くなった」
「突如、まだ学校に通っている娘と私自身の将来が自分の肩にのしかかってきた」
シンガルさんには、夫の死を嘆いている余裕はまだない。それよりも、家賃をどうやって払うか、次の食事をどうやって確保するかに集中しなければならない。
「わずかばかりの貯蓄は夫の治療費、葬儀費用、そして先月分の家賃の支払いなどのやり繰りで使い果たしてしまった」と彼女は言う。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/08/post-96831.php
母親の薬代を借りようと友人たちに必死にメッセージを送りつつ聞いていた、母親の苦しげな息づかいが今も残っている。
新型コロナウイルスによるパンデミックのため、霊廟や聖堂で有名なインドの都市アジュメールで暮らすメグワルさんの貯蓄は尽き、
住宅の塗装で稼いでいた所得も失われた。何よりも大きな痛手は母親を亡くしたことだ。
メグワルさんはアジュメールから電話でトムソン・ロイター財団の取材に応じ、
「こんな状況は今まで経験したことがない」と語る。
「返済しなければならないローンもあるのに、仕事がない。そして母もそばにいない」
メグワルさんと同じように、何万人ものインド国民が肉親との死別、失業、債務という三重苦にあえいでいる。
新型コロナウイルスの深刻な第2波がインドの脆弱な医療体制を崩壊に導いたためだ。
度重なるロックダウンで失業者は急増し、インドの多くの家庭では貯蓄が底を突いてしまった。
パンデミックの影響を受けた世帯は、発症した親族の治療費を自ら賄わざるを得ず、借金に頼る例も多い。
新規感染者が減少するにつれて、国内のロックダウンは解除され始めている。
だがインド経済は新型コロナにより深刻な打撃を受け、昨年来、過去最悪の景気後退を味わい、
各世帯は仕事が乏しい中で多額の債務を返済するという大きな困難を抱えている。
中央銀行であるインド準備銀行は成長予測を下方修正し、エコノミストらは、
手形不渡り率から質流れした宝飾品の額に至るまで、インド経済の苦境の程度を示すさまざまなデータを指摘している。
メグワルさんは、病に倒れた母親を何とか政府系の病院に入院させることができた。
だが、薬から酸素マスクに至るまで、治療に必要なものはすべて自分で購入しなければならなかった。
薬局はどこも通常の2倍の価格を吹っかけてきた。
「我が家は決して豊かな方ではないが、貧しくもなかった」とメグワルさんは言う。パンデミック前は、父親が建てた住宅の塗装を担当していた。
「父と私の2人で稼いでおり、十分に食べて行けた。だが昨年のロックダウンで仕事がなくなり、生き延びるための食費と光熱費などで貯蓄は使い果たした」
インドの失業率が過去12カ月間で最悪の11.9%に達する中で、メグワルさんはポーターとして働き、
辛うじて1日約300ルピー(約440円)を稼ぐだけだ。母親の治療のために借りた6万ルピー(約8万8000円)をどうやって返済するか、途方に暮れている。
メグワルさんの母親が亡くなる2週間前、墓廟タージマハルで有名なインド北部の都市アグラの街路で、
主婦レヌ・シンガルさん(45)は夫を乗せたオート三輪タクシーを急がせていた。
シンガルさんの夫は彼女の腕の中で亡くなった。幸福な家庭生活は覆され、彼女のもとには未払いの請求書、家賃の支払い、わずかな貯蓄だけが残された。
「24時間で何もかも終わってしまった。夫の熱が急に上がり、急いで複数の病院に連れて行こうとしたが、入院許可を待つ間に三輪タクシーの中で亡くなった」
「突如、まだ学校に通っている娘と私自身の将来が自分の肩にのしかかってきた」
シンガルさんには、夫の死を嘆いている余裕はまだない。それよりも、家賃をどうやって払うか、次の食事をどうやって確保するかに集中しなければならない。
「わずかばかりの貯蓄は夫の治療費、葬儀費用、そして先月分の家賃の支払いなどのやり繰りで使い果たしてしまった」と彼女は言う。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/08/post-96831.php