新型コロナウイルスのワクチン接種を巡り、自治体や医療現場が混乱している。政府の号令で各自治体は接種のスピードアップを図ったが、政府の供給能力が追いつかなくなった。現時点で高齢者(65歳以上)の接種への影響は限定的との見方だが、順次始まっている64歳以下への影響は避けられそうにない。
「あまりに突然すぎる」。福岡市西区の福岡リハビリテーション病院でワクチン接種を担当する職員、財部(たからべ)勲雄さんは困惑を隠せない様子で福岡市の文書を示した。政府からのワクチン供給減少を理由に、7月12日以降の予約枠を減らすよう市内の医療機関に求める内容で、6月28日午後11時過ぎにファクスで届いたという。
文書には1週間当たりの予約枠が示され、同院の場合は7月は684人、8月は480人に抑えるよう求められた。既に7月の3週と5週は750人が予約しており、急きょ延期を依頼している。
同院は6月、駐車場の一角に仮設の接種会場とコールセンターを設置。職域接種の対象にならない中小企業従業員への接種にも対応してきた。財部さんは「予約者からは『打てると思っていたのに』などと苦情を言われる。私たちも接種を増やせるよう努力してきたのに」と語る。
福岡市内の別のクリニックの院長も「政府が『打て打て』と言うから診療時間をやりくりして接種を増やしたのに、これではやる気を失う。今後も供給が減る可能性があるなら怖くて予約を受け付けられない」と憤る。
自治体が接種の抑制を求めるのは、政府からのワクチン供給が7月以降、減るためだ。政府は、自治体向けに供給してきたファイザー社製ワクチンを6月までの3カ月で1億回分確保していたが、7月からの3カ月は7000万回分しか確保できなかった。自治体は打ち手となる医師らを確保するなど接種能力を高め、対象を64歳以下にも広げ始めていた。ワクチンの需要と供給のギャップは拡大し、自治体からの希望量に対する配分量は5〜6月は8、9割前後だったが、7月5日からの2週間は53%、19日からの2週間は36%まで落ち込むことになった。
集団接種の体制を見直す自治体も相次ぐ。長崎市は予約会場を8カ所から2カ所に減らし、熊本県荒尾市は接種予約の一時停止を決めた。60歳未満の予約受け付けを一時中止した山口県長門市の担当者は「1回目の接種が終わった人の2回目の分の確保が優先だ。市の64歳以下の接種拡大時期とも重なり、混乱を避けるためには受け付けを停止せざるを得ない」と説明する。
政府は9月までにファイザー社製計1億7000万回分と職域接種や集団接種で使われるモデルナ社製5000万回分の計2億2000万回分(1億1000万人分)を確保し、ファイザー社製は10〜12月にさらに2400万回分(1200万人分)が入る予定だ。接種対象の12歳以上(約1億1400万人)をカバーできる計算で、河野太郎行政改革担当相は6日の記者会見で「ほぼすべての希望する方が2回接種できる量が9月までに確保できている」と強調した。【平川昌範、土田暁彦、吉住遊】
毎日新聞 2021/7/9 19:47(最終更新 7/9 21:33)
https://mainichi.jp/articles/20210709/k00/00m/040/295000c