【ニューヨーク=白岩ひおな】ニューヨーク州議会は5日、新型コロナウイルスの感染拡大に対処するために民主党のクオモ州知事に付与していた一時的な緊急権限を剥奪(はくだつ)する法案を可決した。クオモ氏が署名すれば成立となる。クオモ氏は元側近の女性へのセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)の告発や、高齢者施設での新型コロナの死者数を過少報告していた疑惑で批判にさらされている。与党である民主党内からも辞任を求める声が出ており、クオモ氏は窮地に陥っている。
緊急権限を?奪する法案は上院が43対20、下院は107対43の賛成多数で可決した。野党共和党は権限の剥奪(はくだつ)が不十分だとして反対に回った。
州議会がクオモ氏に2020年3月に付与した緊急権限は、知事が議会の審議を経ずにコロナ対応に必要な行政命令を下すことを可能にする特例措置だ。クオモ氏はマスクの着用や隔離期間の義務化など、感染状況に応じて100近くの命令を下してきた。
新法案の下では、感染拡大抑制やワクチン接種の普及に必要な新たな行政命令の発令が制限され、発令や延長などには議会での審議が必要となる。既存の知事令については「公衆衛生上重要な場合」にのみ延長が許される。透明性を高めるため、全ての知事令についてオンラインでの報告も知事に義務付けるという。
法案には、郡などが州の承諾なしに行政命令を出す権限を回復させることも盛り込まれた。クオモ知事はコロナ禍での休校やビジネス活動の制限に関する権限をめぐって、ニューヨーク市のデブラシオ市長と度々対立してきた。
クオモ氏は10日以内に法案に署名または拒否権を行使をする必要がある。拒否権を行使した場合でも、民主党が多数派を占める州議会は拒否権を無効化できる。クオモ氏は3日、法案が可決されれば署名するとの考えを示していた。
1月末に州司法長官の事務局が「州が公表した高齢者施設でのコロナ死者数は実際より50%ほど少ない可能性がある」との調査結果を公表し、批判が強まった。4日には米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)が、クオモ知事の側近が20年6月、高齢者施設での死者数を実際より少なく見せる工作をしていたと伝えた。
これまでに元側近2人を含む3人の女性がクオモ氏からセクハラを受けたと告発しており、州司法長官が調査を進めている。クオモ氏は3日の記者会見で「不適切な接触はしていない」と主張した。「(女性が)不快な思いをしたり傷ついたりしたことは全く知らなかった。傷つけてしまったことに謝罪したい」と述べた一方、辞任は否定した。現在3期目のクオモ氏は22年の知事選出馬を目指している。
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