山田 悠史 : 米国内科専門医
ニューヨーク市内では昨年の12月15日から、新型コロナウイルスワクチンの接種が開始となりました。
使えるワクチンは、当初はまだファイザー製のものだけ。医療従事者から接種が始まりましたが、
まず初めは、いわゆるER(救急初療室)で勤務をする医療者、続いてICU(集中治療室)で勤務をする医療者が接種対象でした。
2週目に入り、新型コロナウイルス感染症の患者さんが入院する一般病棟で勤務する医療者が対象になり、
ここで私に順番が回ってきました。12月21日のことです。病院からメールで順番が回ってきた旨を知らせる連絡があり、
当時はまだ予約のウェブサイトがありませんでしたので、メールで返答をして予約確定。
接種が開始してまだ1週間。早く接種を受けたいと、ワクチンの接種会場には接種を待つ医療者で長蛇の列ができていました。
受け付けを済ませた後、問診票が渡され、ワクチンの有効性と副反応についての説明を読みました。その後、十分に納得したうえで署名をし、いよいよワクチン接種です。
当時接種を受けている人は医療者のみという状況で、周りには、SNSでシェアをするための動画や写真を撮っている人がたくさんいました。
接種を待つ人たちの表情は、不安や心配といったものではなく、使命感や期待感にあふれたものでした。
ワクチン接種自体はものの数秒で終わってしまいました。左の腕を露出して、消毒。消毒が済むと、とても細い針で筋肉注射が行われました。
接種が終わった後は、約15分の経過観察がありました。ここでアレルギー反応がないかの確認が行われます。
今回のワクチンでは、0.001%程度の確率で重度のアレルギーが報告されており、そのほとんどが接種後15分から30分以内に生じていることがわかっています。
また、重度のアレルギーが仮に起こった場合、すぐに治療を始めれば大事に至らずに済むこともわかっています。
そういった背景があり、15分から30分の経過観察が行われているのです。
実際に、このような対策がとられることで、今のところアレルギーを起こして命を落としてしまったという方は報告されていません。
重いアレルギーが起こってしまうのは怖いと感じられるかもしれませんが、私たちが普段病院で用いている抗菌薬のペニシリンは約5000人に1人の割合、
0.02%の割合でそのような重度のアレルギーが起こると報告されています。それと比べると割合は非常に低いことがわかります。
私自身はというと、アレルギー反応などなく、経過観察は15分で終了となりました。
それから接種当日は、まったく無症状で経過をしました。本当に痛みも違和感も何も感じませんでした。
すでに自分のワクチン接種からは50日以上が経過しました。50日が経過した今も、大きな副反応なく経過をしています。
何より、このワクチンの一番の魅力は誰もが想像をしなかったほどの高い有効性です。
その安心感は、もう一層の頑丈なマスクを与えてもらっているような、とても大きなものです。
もちろん、まだマスクも、手洗いも続けなくてはいけませんが、それでもなお、ここまで1年間少なからず抱えてきた不安を大きく取り除いてくれるものでした。
また、このワクチンには、重症化を防ぎ、命を守る効果も期待され、有効性が少なくとも半年ほどは持続しそうだというところまでわかってきています。
もちろん、さまざまな価値観を持つ人がいる中で、私は皆さんに接種をしろと言うようなつもりはありません。
ただ、各報道などでリスクばかりが取り上げられやすく、どこか膨張してしまっていることには注意を払う必要があると思います。
また、ワクチンを受けることには、自分自身を守るという意義はもちろんのこと、
これまで日常生活の中で感染リスクを共有してきた、自分の身の回りの大切な人、両親や上司、友人を守るという意義もあります。
この1年、つねに消えない不安と誰もが戦い続けてきたと思います。ワクチンはその不安や苦しみを緩和できるよう、世界中の研究者が協力して作り上げてきた叡智の結晶です。
感染リスクを共有して生活をする中、ワクチンの輪を広げ、皆で皆を助け合う。そんな気持ちでぜひワクチンの接種を前向きに考えていただければと思いますし、
何より最後は誰もが納得できる形で決断をしていただければそれが一番だと思っています。
https://toyokeizai.net/articles/-/411139