宇宙航空研究開発機構(JAXA)と福岡市が連携し、2021年度に打ち上げ予定の地球観測衛星「だいち3号」の観測データを活用したビジネス創出の支援に乗り出す。地上の状態を高精度で捉えたデータはアイデア次第で幅広い活用が期待できる。活用法を話し合う官民会議を2月に立ち上げ、民間企業による市内での事業展開につなげる。
だいち3号は新型のH3ロケットに搭載される計画。観測幅約70キロという広い視野と、80センチ以上の大きさの物体を正確に捉える高い解像力を備え、陸上の様子を継続的に観測する。2方向からの立体的な観測や、国内の任意の地点を24時間以内に観測する機能も持つ。
地上の構造物の変化などを細かく観察できるため、交通や災害対応、高齢者の見守りなど多様な分野での活用が見込まれる。海外では、同程度の解像力を持つ衛星データを使い、建物や道路の保守点検、商業施設の駐車場を分析した顧客の嗜好(しこう)把握などのビジネスが展開されているという。
JAXAはだいち3号のデータ活用を促すため、先行事例となる実証事業を、福岡市や長野市など4地域で実施する。福岡市は、九州大発のベンチャー企業「QPS研究所」が小型観測衛星を打ち上げるなど、宇宙ビジネスが活発化していることから選んだ。
実証事業ではまず、だいち3号が撮影するイメージ画像として、米国の商業衛星の画像をJAXAが買い取って提供。各地域で活用法を検討してもらい、打ち上げ後には本物の観測データを提供する。福岡市では2月に地場企業関係者やIT技術者、起業家などを集めた会議を始め、地域活性化につながるアイデアを練り、3月中に報告書をまとめる予定だ。
データの活用は民間主体で、報告書はそのヒントにしてもらう。市は、先端技術を使ったまちづくりを進める九大箱崎キャンパス跡地を実証事業の場に提供するなど、活用事業者を支援する。市の担当者は「より良いまちづくりにつながる事業を生み出す機運を高めたい」としており、JAXAは「重要なのは各地域の課題に合わせた活用法。市民参加型でアイデアを出す手法がうまく進めば、他の自治体にも紹介していきたい」と話す。 (石田剛)
【ワードBOX】地球観測衛星
電波や光を捉えるセンサーを搭載し、地形や植生、温度など地球の様子を宇宙から観測する衛星。広い範囲を継続的に観測でき、軍事目的で進化してきたが、近年はデータの商業利用が進んでいる。だいち3号は、人間の視覚に似た情報が得られる光学センサーを搭載。観測データは公共目的の利用に加え、民間企業を通じて商用にも活用される予定。
西日本新聞 2020/12/31 6:04
https://www.nishinippon.co.jp/sp/item/n/678162/