発熱患者が殺到したら…限界寸前の救急病棟 医師「年末年始は行動慎重に」
新型コロナウイルスの感染拡大で救急病院が対応に追われている。冬場に多い発熱やせきを伴う患者は新型コロナ感染症の可能性が否定できず、隔離や防護衣を着用するなどの手間が生じるためだ。多くの医療機関が休みになる年末年始に患者が殺到すれば、脳卒中など一分一秒を争う重症者の救命に影響しかねない。「助かる命を助けられなくなる事態は、絶対に避けなければならない」。緊張感漂う年末の救急科を取材した。
<90歳女性、下肢脱力、対光反射あり、体温37度8分、血圧は…>。12月末、北九州市小倉北区の健和会大手町病院。救急車で搬送される女性の症状が救急科にスピーカーで伝わり、医師や看護師の表情が引き締まった。防護衣や高性能マスクを着け、心電図などの機器にポリ袋をかぶせる。発熱やせきの症状がある場合はこうした措置をとる。
女性はカーテンで仕切られた8畳ほどの処置室で治療を受け、コンピューター断層撮影(CT)で肺炎症状がないこと、PCR検査で陰性を確認し、入院した。
「9割は陰性だが、毎日1、2人は陽性が出るから気が抜けない。時間も手間も2倍になった」。徳田隼人救急科部長はこう話す。この日、救急搬送と自力で来院する「救急外来」は計44人。入院する8人はPCR検査をし、陽性の2人は翌日、コロナ専用病床がある重点医療機関に転院した。
大手町病院は市内最多の年間7千件余りの救急搬送を受け入れる。「万一、患者から感染し、院内クラスター(感染者集団)が発生したら、とぴりぴりしている」という。この日も、前夜に搬送されてみとった患者が死後検査で陽性と判明。濃厚接触したスタッフがいないか確認に追われた。
今年の年末年始は医師を1人増員して6人、看護師は7人で対応する。例年、年末年始の救急外来は「100人待ち」の状態。怖いのは、例年のように発熱患者が殺到し、感染対策に追われたり、隔離可能な3病床が埋まったりして、重症者を断らざるを得なくなる事態だ。今夏の流行時は熱中症患者も重なり、救急車を9件断った。
「脳卒中や心筋梗塞は少しの遅れが命取り。元気な人の行動が、巡り巡って高齢者や病気の人を苦しめかねないと想像し、年末年始は慎重に行動してほしい」と徳田部長は求める。
福岡市で最多の年間約5500件の救急車を受け入れる福岡赤十字病院(同市南区)は、コロナ専用病床19床を抱える重点医療機関でもある。例年、年末年始は交通事故やけんかによる外傷、急性アルコール中毒、高齢者の食べ物による誤嚥(ごえん)性肺炎が増えるという。
無症状者が紛れている可能性もあるため、全てに防護衣で対応し、その都度着脱や消毒に時間を取られる。救急科の荒武憲司副部長は「十分注意すれば防げる病気やけがが多い。今年は不要不急の外出をやめ、静かに過ごして」と話す。
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年末年始はかかりつけ医が休みの場合、急患センターや当番病院が対応する。ただ、発熱やせき、のどの痛みを伴う場合は、まず各自治体の「受診・相談センター」(24時間対応)に電話し、医療機関の紹介を受ける。呼吸困難など一刻を争う場合は救急車を呼ぶ。 (下崎千加)
西日本新聞 2020/12/29 6:04
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