昔の猟具を説明するマタギの福原和人さん(右)=2020年12月6日午前10時42分、長野県栄村、石坂大輔さん提供
マタギが捕獲したクマの毛皮=2020年12月6日午前10時9分、長野県栄村、石坂大輔さん提供
伝統的な方法でクマやウサギを狩るマタギの里として知られる長野県栄村で、後継者を育てて村内に伝わるマタギ文化を冬場の新しい観光資源にしようと、初めての養成講座が開かれた。マタギのサバイバル技術やジビエ料理などを学ぶ講座に記者も参加した。
同村の秋山郷で温泉旅館「雄川閣」を経営する「ヤドロク」社長の石坂大輔さん(40)が講座を企画。地元のマタギたちと交流を深めるうち、「マタギの存在は、観光面で秋山郷の大きな魅力」と考えるようになった。今回、観光庁の助成金を得て、12月5〜9日、同9〜13日の各4泊5日で参加無料の「モニターツアー」を実施した。
マタギは入山後は縁起の悪い言葉を使わないなど、独特のしきたりを持つ。講座では秋山郷のマタギ6人がこうしたしきたりを解説。持参したクマの毛皮でなめし方を説明したり、かつて使われた槍(やり)の使い方を実演したりした。
一緒に山林を歩く「マタギトレッキング」では、マタギたちが林道の雪面に残ったクマの足跡を見つけると、なたで藪(やぶ)を切り開いて受講生を先導。クマが冬眠する木の穴を説明したほか、約50年前まで猟で使われていた岩穴に案内し、当時の狩猟生活について解説した。
後継者不足に悩むマタギだが、受講した相模女子大3年の渡部美紀さん(21)は「後継者を見つけたいとか、マタギ文化がなくならないでほしいという熱い気持ちがすごく伝わった。マタギトレッキングはワクワクした」と話していた。
近年、過疎化で里山が荒廃したほか、ハンターの高齢化などで増えすぎたシカやイノシシの食害が問題となっている。講座ではジビエ料理を村の名物にしようという試みもあった。都内の調理師専門学校「エコール辻東京」の秋元真一郎教授(52=西洋料理)らが、栄村のイノシシとシカを使った料理を提案した。
「フランスでは市場でイノシシやウサギの肉が売られている。血抜きなど下ごしらえをすれば、とてもおいしい」と、フランスで修業経験のある秋元さん。シカのロース肉ステーキは、付け合わせに地元産のネギを、ソースは信州特産のリンゴとブルーベリーを使った。イノシシ肉の照り焼き丼は、細かく刻んだ野沢菜をご飯に混ぜた。いずれも地産地消になるうえ、肉に臭みがなく柔らかくて高級料理のように感じた。
村内で鳥獣解体業を営む月岡健治さん(48)が講師を務める解体の講座も。オナガガモなど3羽のカモを、受講生自身が羽根をむしって関節を外すなどの作業をした。「解体に手間がかかるが、ジビエ料理を一般家庭でももっと食べてもらえるようにしたい」
講座の総括は、新潟県湯沢町や栄村など新潟、長野、群馬の3県7市町村で組織する一般社団法人「雪国観光圏」の代表理事、井口智裕さん(47)。かつてのスキーブームでリゾートマンションが乱立した湯沢町で老舗旅館を営む井口さんは「雪国の観光資産はスキー場やグルメだけではない。8千年前の縄文時代から続く、雪と共生して育まれた知恵こそ価値がある」と力説。雪国観光圏の中でもマタギに代表される栄村は、暮らしを体験し、住民と触れ合う「滞在型観光がつまった地域」と評価した。
石坂さんは「今回のプログラムはマタギや料理のプロにお任せしたが、予想以上の内容になった。来年はマタギ体験を中心にいろんなツアーを企画したい」と手応えをつかんでいた。(近藤幸夫)
朝日新聞デジタル 2020年12月22日 10時30分
https://www.asahi.com/articles/ASNDP6RQQND9UOOB002.html
マタギが捕獲したクマの毛皮=2020年12月6日午前10時9分、長野県栄村、石坂大輔さん提供
伝統的な方法でクマやウサギを狩るマタギの里として知られる長野県栄村で、後継者を育てて村内に伝わるマタギ文化を冬場の新しい観光資源にしようと、初めての養成講座が開かれた。マタギのサバイバル技術やジビエ料理などを学ぶ講座に記者も参加した。
同村の秋山郷で温泉旅館「雄川閣」を経営する「ヤドロク」社長の石坂大輔さん(40)が講座を企画。地元のマタギたちと交流を深めるうち、「マタギの存在は、観光面で秋山郷の大きな魅力」と考えるようになった。今回、観光庁の助成金を得て、12月5〜9日、同9〜13日の各4泊5日で参加無料の「モニターツアー」を実施した。
マタギは入山後は縁起の悪い言葉を使わないなど、独特のしきたりを持つ。講座では秋山郷のマタギ6人がこうしたしきたりを解説。持参したクマの毛皮でなめし方を説明したり、かつて使われた槍(やり)の使い方を実演したりした。
一緒に山林を歩く「マタギトレッキング」では、マタギたちが林道の雪面に残ったクマの足跡を見つけると、なたで藪(やぶ)を切り開いて受講生を先導。クマが冬眠する木の穴を説明したほか、約50年前まで猟で使われていた岩穴に案内し、当時の狩猟生活について解説した。
後継者不足に悩むマタギだが、受講した相模女子大3年の渡部美紀さん(21)は「後継者を見つけたいとか、マタギ文化がなくならないでほしいという熱い気持ちがすごく伝わった。マタギトレッキングはワクワクした」と話していた。
近年、過疎化で里山が荒廃したほか、ハンターの高齢化などで増えすぎたシカやイノシシの食害が問題となっている。講座ではジビエ料理を村の名物にしようという試みもあった。都内の調理師専門学校「エコール辻東京」の秋元真一郎教授(52=西洋料理)らが、栄村のイノシシとシカを使った料理を提案した。
「フランスでは市場でイノシシやウサギの肉が売られている。血抜きなど下ごしらえをすれば、とてもおいしい」と、フランスで修業経験のある秋元さん。シカのロース肉ステーキは、付け合わせに地元産のネギを、ソースは信州特産のリンゴとブルーベリーを使った。イノシシ肉の照り焼き丼は、細かく刻んだ野沢菜をご飯に混ぜた。いずれも地産地消になるうえ、肉に臭みがなく柔らかくて高級料理のように感じた。
村内で鳥獣解体業を営む月岡健治さん(48)が講師を務める解体の講座も。オナガガモなど3羽のカモを、受講生自身が羽根をむしって関節を外すなどの作業をした。「解体に手間がかかるが、ジビエ料理を一般家庭でももっと食べてもらえるようにしたい」
講座の総括は、新潟県湯沢町や栄村など新潟、長野、群馬の3県7市町村で組織する一般社団法人「雪国観光圏」の代表理事、井口智裕さん(47)。かつてのスキーブームでリゾートマンションが乱立した湯沢町で老舗旅館を営む井口さんは「雪国の観光資産はスキー場やグルメだけではない。8千年前の縄文時代から続く、雪と共生して育まれた知恵こそ価値がある」と力説。雪国観光圏の中でもマタギに代表される栄村は、暮らしを体験し、住民と触れ合う「滞在型観光がつまった地域」と評価した。
石坂さんは「今回のプログラムはマタギや料理のプロにお任せしたが、予想以上の内容になった。来年はマタギ体験を中心にいろんなツアーを企画したい」と手応えをつかんでいた。(近藤幸夫)
朝日新聞デジタル 2020年12月22日 10時30分
https://www.asahi.com/articles/ASNDP6RQQND9UOOB002.html