小中学校での「少人数学級」実現を目指す文部科学省と、それを疑問視する財務省との間で、来年度予算を巡る攻防が激化している。児童生徒に目が届きやすくするため、少人数学級は教育界にとって長年の悲願。新型コロナウイルス感染対策としても求める声が高まっている。だが、教員を増やすには予算の確保が必要で、財務省は「少子化による子どもの減少ほど、教員は減っていない」と否定的だ。(土門哲雄、森本智之)
◆1クラス40人では感染防止の距離保てない
「不退転の決意で取り組む」。少人数学級や働き方改革を求める全国校長会や教職員組合など23団体が12日に開いた集会で、萩生田光一文科相は力を込めた。参加した与野党議員も「足並みをそろえたい」「敵は財務省にあり」と気勢を上げ、翌日には萩生田氏は「30人学級を目指すべきだと考えている」と具体的に言及した。
一斉休校後、分散登校になり「一人一人をしっかりと見ることができた」と現場から少人数学級を求める声が高まった。64平方メートルの教室に40席だと感染防止に必要な1メートルの距離を保てないことや、1人1台のパソコンやタブレット端末が本年度中に配備され、今後は個々の学習状況に応じて、さらにきめ細かな指導が必要になることが、背景にある。
少人数学級化を求める署名活動には18万人以上が賛同。現場は不登校や家庭環境による格差などさまざまな課題への対応が求められており、清水睦美日本女子大教授は「未来を考えたら、今実現しないでどうするのか」と訴える。
公立小中学校の児童生徒数は10年後に約100万人減り、教職員も約5万人減る見込み。文科省初等中等教育局財務課は「30人学級を実現するには教員を8万〜9万人増やす必要があるが、現状の人数を減らさず段階的に移行すれば、追加の財政負担は少なく実現できる」と前のめりだ。
◆感染防止ならオンライン授業推進が筋では
「40人を30人にしたからといって感染対策になるのか」「感染防止ならオンライン授業を進めるのが筋では」。財務省幹部からは、少人数学級を求める文科省の姿勢を疑問視する声が次々漏れる。コロナ対策をてこに従来の主張を通そうとする「便乗」とみる。
そもそも少人数学級に財務省が懐疑的なのは、肝心の学力向上などの点で明確な効果が見えない点だ。幹部は「学級サイズを小さくして教育の質を上げると言うが、最近の研究ほど学力への影響はあまりないことを示している」と主張。経済協力開発機構(OECD)も報告書で「成績に与える影響についての証拠は弱い」と認める。
◆教員の採用倍率下がり、質の低下危惧
教員を増やすことによる質の低下も危惧する。小学校の採用倍率の全国平均は2000年度の12.5倍から、19年度は2.8倍と右肩下がりだ。
埼玉県志木市は市費で教員を雇用し、全国に先駆けて02年度から独自に小学校での少人数学級を実践してきたが、18年度に廃止した。「採用倍率が当初の20倍から1倍程度まで下がり、指導力不足の教員が出てきた」(市教育委員会)ためで、現在は授業に応じて一つのクラスに複数の教員を配置する「少人数教育」に転換している。
一方、貧困層の子供らにはクラスが小さい方が学力向上に効果があるとの研究結果があり、ピンポイントでの導入は容認する財務省は、あくまで全国一律の実施は「費用対効果の面で疑問」と反対の立場だ。
東京新聞 2020年11月29日 05時50分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/71188