2020年10月、JR武蔵野線の205系引退に伴う鉄道趣味者の撮影や行動について問題になったときがあった。やれやれ、と思っていたら、同じ10月に小田急でも騒動が発生した。20000形「RSE」の回送を撮影するために営業時間終了後の座間駅ホームに侵入した者がいたとのことである。趣味に法律が持ち出されるのは望まないが、営業時間外の駅構内への無断侵入には法律が持ち出されざるをえなくなる。改めて弁護士の立場から、とくに鉄道写真を撮影するときの注意を促したい。
駅には誰でも出入りできるが…
駅は、列車に乗る人や駅構内に用事のある人のために開かれた場所である。有効な乗車券や入場券を持っていれば、通常は用件を聞かれることなく改札内に出入りすることができる。しかし、あくまで駅の管理権は鉄道事業者にある。誰を出入りさせるかの判断権を持つのは鉄道事業者である。有効な乗車券や入場券を持っている人であっても、鉄道事業者が入場不可とすれば駅に入場できない。当然のことながら駅の営業時間外で利用者の立ち入りが認められない場合には、関係者以外は入場できない。
先日の小田急RSE撮影の際の立ち入りは営業時間外であり、鉄道事業者は撮影者に入場を許していない。当然に違法ということになり、警察沙汰になっても文句を言えない行為である。これに関連して、線路脇にある施設からの撮影について述べておきたい。当たり前だが管理者の承諾がない限り私有地の立ち入りは許されない。一方で私有地であっても不特定多数の人を対象に開放されているような場所もある。営業時間中の商業ビルやショッピングセンターなどが典型例である。商業ビルやショッピングセンターなどは、むしろ不特定多数の人に訪問をしてもらい建物内の商業施設を利用してもらうことを目的としているから、よほどのことがない限り入場を拒否することはない。
では線路脇に存在する商業ビルやショッピングセンターの駐車場などの敷地から列車の撮影をすることは何の問題もないのか。
“黙認”に甘えてはいけない
商業ビルやショッピングセンターなどが不特定多数の人をとくに選別することなく入場させるのは、入場する人を施設に用のあるお客さんと推定するからである。施設に明らかに用のない人までも積極的に入場させるということではないだろうが、入場しようとする人を見て施設への用事の有無を判断することは難しいから一応区別せず入場させるのである。施設が自ら「鉄道撮影スポット」などと売り出して撮影者を積極的に誘引しているのであれば、入場のうえルールを守って撮影することに問題はない。しかし、撮影者を積極的に誘引しているわけではない施設で、買い物などの目的も用事もまったくない人が、ただ列車の撮影目的だけで入るのを施設が無条件に歓迎することもないだろう。それでも施設に入場する際に文句を言われないとしたら、せいぜいなところ大人しく撮影するなら仕方ないと施設が暗黙のうちに承諾しているからにすぎない。
他の利用者に迷惑がかからないうちは施設もそのまま黙認をしてくれることもあるかもしれない。しかし、黙認に甘えて、三脚を立てたり多くの撮影者が訪れたりして、本来の利用に支障が出ることになれば、もはや黙認はできず撮影目的での立ち入りを不許可にすることもあるだろう。もし施設内でトラブルが起きたり、不測の事故が起きたりすれば、施設管理者が責任を問われかねない。「駐車場で生じた事故について施設は責任を負いません」というような看板が出されていることがあるが、それでも安全管理が不十分だと認められれば施設側も事故の責任を免れないこともある。施設に何の用もない趣味人のためにそこまで施設がリスクを負うことをするはずもない。
もう1つ、人を入れた鉄道写真の撮影についても述べておきたい。鉄道写真を撮ろうとすると、鉄道利用者の顔や姿が写真に入る場合がある。むしろ日常の鉄道風景を撮りたいという場合にはあえて利用者を写真の中に入れることもあろう。
しかし、撮られる側からすれば、撮影されることを承諾した場合はともかく、まったく知らない人から自分を撮影されるのは気持ちのいいものではないだろう。SNSやネットで写真が容易にupされる世の中で、自分であるとわかる状態で撮影されることの抵抗がある人もいるだろう。先に記した施設の黙認との関係で、「撮影者がいて自分が写る可能性があることを認識している、あるいは認識できるときに、被写体になる人が撮影拒否の意思を明示していない場合には黙認したことになるのでは?」という考えもあるかもしれない(長文の為以下はリンク先で)。
東洋経済2020/11/24 5:50 小島 好己弁護士
https://toyokeizai.net/articles/-/389985