「なんとかめぐみさんの顔を見せてあげたかった」。5日、北朝鮮による拉致被害者横田めぐみさんの父で拉致被害者家族会元代表の横田滋さん(87)が亡くなり、一緒に被害者の救出活動を続けてきた関係者はショックを受け、肩を落とした。滋さんは優しい人柄と強い信念で長年、救出活動を引っ張ってきた。今なお拉致問題にほとんど進展がない中、母早紀江さん(84)ら家族は「本当に時間がない」と早期解決を強く訴えた。
「一瞬、頭の中が真っ白になり、今は何も考えられません」。拉致被害者曽我ひとみさん(61)=新潟県佐渡市=は滋さん死去の一報を聞いた際の様子をこう説明し、「ご冥福をお祈りするばかりです」とコメントした。
拉致被害者で新潟産業大准教授の蓮池薫さん(62)と妻の祐木子さん(64)=柏崎市=は「悲しさと悔しさを抑えられない。親子の再会を阻んできた北朝鮮当局への憤りを鎮めることができない」とのコメントを発表。「日本政府には、被害者の両親がまた一人亡くなられたというありきたりの決意の言葉で済まさないでいただきたい。情勢の成り行きの中で解決できればいいという考え方を変え、直接解決に向かう大胆な方策を、リスクを負ってでも実践していく姿勢を見せていただきたい」と強調した。
薫さんの兄透さん(65)は「悔しいし、悲しいし、残念だ」と悼んだ。滋さんについて「温和で、極めて冷静な人だった」と振り返り、ともに酒を酌み交わした思い出に触れて「外では見せない強い感情を感じた。やるせなく、苦しくて歯がゆい思いがあったのだろう」と推し量った。
福井県小浜市の拉致被害者地村保志さん(65)、富貴恵さん(64)夫妻は「家族会代表としてわれわれ被害者の救出に大変な尽力を頂き、深く感謝申し上げる。めぐみさんとの再会がかなわず残念でならない」とした。
めぐみさんの中学校の同級生、間英法さん(55)は「誰に対しても丁寧に心配りをする人で、あのお父さんがいたからみんなが付いていった」。「再会を誓う同級生の会」代表の池田正樹さん(56)は「活動は被害者帰国の日まで貫く。滋さんには『めぐみさんと早紀江さんを必ず会わせますから』と伝えたい」と言葉を振り絞った。
滋さんから拉致被害者家族会代表を引き継いだ飯塚繁雄さん(81)は「本当に残念。何もしなければこうして亡くなってしまうのは当たり前だ。少しでも前に動かしていけるよう政府に求めたい」と語った。
滋さんらは1997年、めぐみさんの実名公表に踏み切った。特定失踪者問題調査会の荒木和博代表(63)は「反対の声もある中、めぐみさんの実名を公表する判断をしたことで拉致問題が動いた。あの決断がなければ今の状況はなかった」と悼んだ。
「滋さんは生活の全てを救出にささげていた。きっと最期までめぐみちゃんと名前を呼び続けていたはずだ」と長岡市の特定失踪者、中村三奈子さん=失踪当時(18)=の母クニさん(77)。滋さんと同じく娘を捜し続ける親として「成長する姿を見られないなんて、本当に悔しい。一体どうすれば解決するのか」と声を震わせた。
佐渡市で消息を絶った新潟市西蒲区出身の特定失踪者大沢孝司さん=失踪当時(27)=の兄昭一さん(84)は「とうとうこういう日が来てしまった」と肩を落とした。「家族を返してもらいたいという思いは同じ。私たちの願いはそれだけだ」
新潟日報 2020/06/05 23:07
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