総合科学系生命環境医学部門の松川和嗣准教授が、宮城県畜産試験場との共同研究で、凍結乾燥精子による子牛の誕生に世界で初めて成功しました。
従来、肉質の優れた雄牛の精子の保存にはマイナス196度の液体窒素が用いられてきましたが、液体窒素は気化してしまうため定期的に補充しなければならず、その生産のための環境負荷や人体への悪影響 (酸欠や低温やけど)、自然災害や伝染病発生時の貴重な遺伝資源の損失のリスクなどがデメリットとなり、持続的な家畜生産への影響が懸念されています。
凍結乾燥(フリーズドライ)はインスタントコーヒー、みそ汁など食品や医薬品の保存では一般的な技術で、この技術の精子保存への適用によって窒素の供給コストや安全面等のリスクがなくなり、遺伝資源の安全安心な保存が可能になります。
今後は、土佐あかうしなどの希少な和牛精子を保存するための実用化や他動物への応用、そして乾燥して“死んだ”精子が生命誕生のスタートとなる謎の解明が期待されます。
【背景】
現実または潜在的な価値を有する生物遺伝資源は、農業、生命科学、医薬品開発、材料等様々な分野で研究・産業発展のために必要不可欠のものですが、一度失われると再現不可能なためにその保管は非常に重要です。ウシ精子は、現在では液体窒素中に保存する凍結保存によって人工授精および体外受精に供試され、牛の育種改良および増頭に重要な役割を担っています。しかし、液体窒素生産にかかる環境負荷が発生する、凍結精液の維持には液体窒素を常に供給しなければならずコストやスペースが恒常的に必要である、輸送が容易ではない、取り扱いには人体への安全面で問題がある、など様々な欠点があります。さらに、平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災では、電力や液体窒素の供給が途絶えることによって貴重な生物遺伝資源が多数失われました。海外ではハリケーン等の自然災害でも損失が認められています。そのような背景から近年、液体窒素保存に替わる精子の保存技術が望まれています。
そこで本研究では、貴重な遺伝資源であるウシ精子を安全安心に保存することができる新たな技術を開発するために、凍結乾燥 (フリーズドライ)(1) 保存したウシ精子からの産子生産を目指して研究を行いました。
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https://research-er.jp/articles/view/89287