新型コロナウイルスの感染拡大で雇用への影響が懸念される中、京都府や滋賀県で解雇や退職勧奨とみられる事案が出始めている。中には不当な退職強要とみられる事案もあり、専門家や労働組合は「今後、同様の事案が多発するのではないか」と警戒し、注意を呼び掛けている。
【写真】退職の危機救った「カレー部門」
4月中旬、滋賀県の遊興施設で働く20代アルバイト女性は、店長から記入欄が空白の退職届を渡された。政府の緊急事態宣言を受け、同月下旬から店舗が休業になると告げられ、「この状況がいつまで続くかめどが立たず、社員だけで運営したい」として退職届への記入を促された。
ただ退職届は本来、自己都合で提出するもの。女性は、今回は会社都合による人員整理だとして退職届への記入を拒んだが、店長からは「会社都合による解雇という形はとらない」と告げられた。女性が他のアルバイト仲間とも連絡を取り合うと、同様に退職届の提出を頼まれていた。
女性はまだ会社と交渉しているが、「シフトを減らされて賃金の受取額もだいぶ減っている。こんな状況では新しい仕事も見つけられない」と話し、どう生活費を工面しようかと不安を募らせている。
また、京都市内のホテルに正社員として勤務する30代男性は3月中旬、会社から「売り上げが減っており、先を見越せない。辞めてもらおうと考えている」と告げられた。自分から退職届を出すか、会社による解雇にするか選ぶよう迫られたという。
男性は「仕事を続けたい」と申し出たが、3月末に1カ月後の解雇予告を通知された。現在は、整理解雇に必要な、人員削減の必要性▽解雇回避の努力を尽くしたこと▽対象者選定の合理性▽労働者との協議を尽くしたこと-という四つの要件を満たしていないとして、解雇の撤回を会社に求めている。
男性は「会社は解雇回避の努力もしていない。正社員で頑張ってきたのにこういう扱いをされ、仕事に対して前向きになれない。次の仕事とお金の両方で不安がある」と漏らした。
雇用問題に詳しい塩見卓也弁護士(京都弁護士会)は、会社側が自己都合による退職を求める背景について「解雇は要件が厳しく、解雇手当の支給も必要になる。しかし、自己都合による退職であれば解雇手当は不要で、後任者を雇う際に助成金が出るなど会社側にメリットがある」とし、自己都合退職の要求は昔からある脱法的な人員整理の手口だと指摘する。
その上で「会社から『仕事がないから来なくていい』と言われ働いていなくても、雇用契約が続く限り賃金は請求可能。少なくとも休業手当は請求できる」とし、「退職届を書いてしまうと、失業給付金が3カ月間出なくなるなど労働者のデメリットが大きい。会社都合で退職届の提出を求められても絶対に書いてはいけない」と呼び掛ける。
個人加盟の労働組合「きょうとユニオン」(京都市南区)の服部恭子書記長は「休業は経営の判断だが、そのしわ寄せは労働者にいく。(業績悪化した企業が従業員を休ませた場合に支給する)雇用調整助成金制度を知らない事業主もおり、今後解雇などが増えないか心配している。不当な解雇などに悩む場合は相談してほしい」と話す。
5/15(金) 12:00 Yahoo!ニュース
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