★コロナ危機が日米同盟を強固にする4つの理由
2020年05月07日(木)15時10分
https://www.newsweekjapan.jp/sam/2020/05/post-47.php
<トランプが退場し中国がさらに台頭すれば、アメリカにとって日本の重要性は一層高まる──。本誌「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より>
アメリカが社会主義陣営と覇権を争っていた1980年代、当時のロナルド・レーガン米大統領は、アメリカを「丘の上の輝く町」になぞらえた。
世界を善へ導く「進歩と自由と民主主義の理想国家」という意味合いだ。
だが新型コロナウイルスの感染拡大が、全てを変えた。いま私たちが目にしているのは、中国が世界中にマスクを届けようとしたり、
ワクチンを開発しているドイツ企業からアメリカがその権利を独占しようとしている姿だ。
新型コロナウイルスは世界秩序を逆転させかねない。そのなかで少なくとも日米関係の観点からは、両国の絆をさらに強固にする理由が4点考えられる。
1点目。今後はグローバル化より地域主義が力を持つ。既にアメリカは中国よりも、メキシコやカナダとの取引を増やしている。
ドナルド・トランプ米大統領が来年ホワイトハウスを去れば、後を引き継ぐ民主党の大統領(おそらくジョー・バイデン前副大統領)は日本と接近を図る。
地域主義が優勢になるにつれ、アメリカは中国を封じ込めるために日本に期待を寄せるだろう。アジアの安全保障における日本の役割は、より重要になるはずだ。
2点目。中国がウイルス対策に成功しているように見えるため、権威主義は予期せぬ大惨事に有利と考える向きもある。
だが、日本や韓国、台湾、ニュージーランド、ドイツなど、リベラルな民主主義国家もうまくやっている。
G7内でも重鎮となった日本は、「丘の上の輝く町」の役割を取り戻そうとするアメリカの試みに欠かせない同盟国となる。
■移民の重要性も認識させた
3点目。トランプの新型コロナウイルス対策が散々なため、米東部・西部の各州は互いに手を組み、独自の対応に乗り出すことを決めた。
しかしトランプは、個々の州が設定した自主隔離の基準に抗議するよう人々をたき付けてさえいる。
感染によって愛する人を失った人々もいるなかで、強い姿勢に出ることを認めた大統領の呼び掛けは大統領選で浮動票の行方を大きく左右しかねない。
トランプの退場は、日米関係にプラスの影響を与えるだろう。民主党の大統領が誕生すれば、中国の台頭を抑えるために今より日本と緊密に連携しようとする可能性が高い。
最後のポイント。新型コロナウイルスの感染拡大の最も痛ましい象徴の1つは、ボリス・ジョンソン英首相だ。彼は陽性と判定され、集中治療室に入った。
危機的な状況を迎えたとき、彼の命を救った2人の看護師がいた。共に移民だった。
ジョンソンがブレグジット(イギリスのEU離脱)を唱え、実現させた理由の1つは、域内をほぼ自由に移動できるEUの政策によって自国に移民が押し寄せるのを嫌ったことだ。
そんな彼が2人の移民看護師の名を挙げて、公に感謝を表明した。各国が移民の重要性を認識すると同時に、人々は自分たちを守ってくれる国への移住を目指すだろう。
高度な技術を持つ移民は、自分たちを保護してくれる国に向かう。日本がそうした国になれれば、アジアの才能にとって魅力的な国になる。
世界的な景気後退が到来すれば多国籍企業は労働力への大規模な投資に消極的になり、オートメーション化への投資に力を入れるだろうが、
日本の技術的な強みは自国の経済的な存在感を増大させる。
日米同盟には前向きなシナリオだ。トランプ王国の終焉により、この見通しはさらに強固なものになる。
より民主的なアメリカ大統領と日本の多様性に富んだ経済がタッグを組めば、70年に及ぶ同盟にさらに強い絆をもたらすだろう。
<2020年5月5日/12日号「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より>