新型コロナウイルスの影響で仕事を休むように求められた働き手に、災害時の特例を応用して、「失業手当」を支給してはどうかという意見が支援現場などから出ている。政府が働き手支援の目玉として拡充を進めている雇用調整助成金だけでは、働き手にお金が行き渡らないとみるためだ。政府も検討を始めた。
日本弁護士連合会は7日、離職していなくても失業手当を支給する大災害時の特例にならい、新型コロナで休業中の人にも失業手当を支給する緊急措置を求める声明を出した。小川英郎弁護士は「『生活が立ちゆかない』という切実な相談が増えている。ここ1〜2カ月が勝負という時に、このままでは対応しきれない」と説明する。
失業手当は本来、会社を辞めたり解雇されたりした時に、次の仕事を探すまでの生活費として国の雇用保険から受け取るお金だ。現在は日額8330〜2千円で、年齢や雇用保険への加入期間などで額や支給期間は変わる。「激甚災害」にあたる大きな地震や台風などの際は、指定された被災地では休業中でも失業したとみなして受け取れるようにする特例があり、提案はこの「みなし失業」の仕組みを新型コロナにも適用するよう求めている。同様の提案は、働き手の支援団体や与野党からも出ている。加藤勝信厚生労働相は8日の会見で「さらに必要な措置があるのではないかという視点に立って議論を進めたい」と述べた。
これまで政府が拡充してきた雇用調整助成金は、まず企業が働き手に休業手当を払い、後から企業に助成金が払われる「後払い」方式だ。そのため、手元に資金のない企業などが休業手当を払わないケースが出ており、必要書類をそろえる手続きにも時間がかかる。「みなし失業」なら、働き手がみずからハローワークで手続きをして、お金を受け取れる。
一方、政府内には慎重論もある。失業手当をもらえる期間は、最短90日間。休業中にこの日数を使ってしまうと、本当に解雇された時に失業手当を十分にもらえなくなる可能性があるためだ。労働問題に詳しい嶋崎量弁護士は、みなし失業は「休業手当を払ってもらえない人にとってはニーズがあるため、賛成ではあるが、企業が休業手当を払わなくていいと考えてしまう危険もあり、歯止めが必要だ」と指摘する。(岡林佐和、滝沢卓)
朝日新聞デジタル 2020年5月9日 5時00分
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