【ベルリン=石川潤】欧州中央銀行(ECB)は30日開いた理事会で、銀行に長期資金を貸し付ける条件を緩和し、最低マイナス1%という超低金利の資金を大量に供給することを決めた。従来予定していたマイナス0.75%から引き下げた。新型コロナウイルスによる経済の混乱が長期化するなか、銀行の資金繰りに万全を期すことで金融危機を未然に防ぐ狙いがある。量的緩和政策は今後の拡大に含みを残したものの、今回は現状通りに据え置いた。主要政策金利も利下げを見送った。
ECBは銀行に長期資金を貸し出す「TLTRO3」と呼ばれる仕組みを拡充し、今年6月からの1年間、最低マイナス1%という低利で資金を供給できるようにする。新型コロナの広がりに応じてより柔軟に資金を供給できる別の仕組みを新設することも決めた。
ECBや日銀のマイナス金利政策は銀行が中央銀行に預けるお金にマイナスの金利をかけて、金融市場全体の金利を引き下げる政策だ。銀行に金利負担(マイナス金利分の手数料)がかかるため、金融システムをかえって不安定にしかねない。一方、今回の政策はECBがマイナス金利で銀行にお金を貸し出すことで、金利負担は中央銀行側にかかるという違いがある。
ラガルド総裁は記者会見で、ユーロ圏の今年の成長率が「マイナス5〜マイナス12%になる可能性がある」と語った。新型コロナによる経済の減速に歯止めがかからないなか、経済の血液である金融をどう維持していくかが政策当局の最大の課題だ。ECBは破格ともいえる条件で資金を潤沢に供給することで、銀行を支えていく構えだ。
一方、ECBは3月18日の臨時会合で7500億ユーロ(87兆円)の追加資産購入を実施すると決めたばかりで、今回は資産購入規模の拡大は見送った。声明文では必要に応じて規模を拡大する準備はできているとしたが、残された数少ない切り札をひとまず温存したかたちといえる。
債券市場では28日にフィッチ・レーティングスがイタリアの格付けを投資適格ぎりぎりにまで引き下げるなど、不安定な動きが続いている。社債市場でも、財務状況の悪化が進む企業に対して厳しい目が注がれており、こうした状況に変化があれば、柔軟に追加緩和に動く姿勢とみられる。
主要政策金利はこれまでの0%に、銀行が中央銀行に余剰資金を預ける際の金利(中銀預金金利)はマイナス0.5%にそれぞれ据え置いた。マイナス金利の拡大は銀行経営に悪影響を与えるとの指摘があり、ECB内でも追加利下げには慎重な声が多い。
日本経済新聞 2020/4/30 22:00 (2020/5/1 5:35更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58679060Q0A430C2EA1000/?n_cid=SNSTW005