世界保健機関(WHO)は25日、各国政府に対し、新型コロナウイルスについていわゆる「免疫パスポート」や「安全証明書」などを発行しないよう呼びかけた。ロックダウン(都市封鎖)や行動制限緩和の目安として、抗体検査の結果を利用しようとする動きに、釘を刺した。
WHOは説明文書で、新型ウイルスによる感染症「COVID-19」から回復して血液内に抗体を獲得しても、その人がもう二度と感染しないという「証拠はない」と強調。一度の感染から回復した人にそのような「証明書」を出して行動制限を解除すれば、むしろ感染拡大を助長する危険があると警告した。
自分にはもう免疫がついたからと思い込んだ人は、予防策をとらなくなる恐れがあると、WHOは懸念している。
厳しい行動制限による経済への大打撃に苦しむ国の中には、回復した人の移動や仕事再開の容認を検討しているところもある。
米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると(日本時間26日午前現在)、世界全体で290万人近い感染が確認されている。そのうち20万人以上が死亡する一方、82万人近くが回復している。
免疫の証明まだない
WHOは、「COVID-19から回復して抗体のある人が、2回目の感染から守られているという証拠は現在ない」と指摘。「パンデミックの現時点では、抗体媒介性免疫の効果について十分な証拠が得られていない。そのため、『免疫パスポート』や『リスクゼロ証明書』などの正確性は、保証できない」と警告した。
これまでの研究では、COVID-19から回復した人は血中に抗体ができているものの、抗体の量が非常に少ない人もいることが分かっている。また、回復にはウイルスの抗体だけでなく、感染細胞を殺すT細胞の働きが不可欠かもしれないと言われている。
WHOはさらに、血中の抗体を検知する検査は、その精度を確認する作業が引き続き必要だと指摘。今回のパンデミック(世界的流行)を引き起こしたSARS-CoV-2ウイルス(いわゆる新型コロナウイルス)と、以前から確認されていた6種類のコロナウイルスとの違いを、抗体検査が正確に識別しているかも、確認する必要があると述べた。
WHOはその後ツイッターで、「COVID-19にかかったほとんどの人は抗体反応を示すようになり、これが一定の防御につながると予想する」と説明。「ただし、その防御の程度や、それがいつまで続くのかまだ分かっていない(中略)この重要な疑問に答える研究はまだ出ていない」と指摘している。
なぜ「免疫パスポート」を検討
南米チリは今月半ば、COVID-19から回復したとみられる人に「健康パスポート」を発行する方針を明らかにした。抗体があると確認されれば、職場に戻れるというものだ。
ほかにも、ドイツ、イタリア、イギリス、米ニューヨーク州など複数の政府が住民への抗体検査を開始している。イギリス政府は今後1年、毎月2万5000人を検査し、抗体の存在や感染の有無を確認する方針。
これによって、COVID-19から回復することでどの程度の免疫力がついて、それがどれくらい持続するのか、情報を得ることが目的。それによって、個人への検査と免疫レベルの判定を与えることが、将来的に有効な手段なのかを判断する。
スウェーデンではロックダウンなど厳しい行動制限を実施せず、一定レベルの経済活動を継続している。このスウェーデンの住民の免疫力が、ロックダウンで厳しく行動を制限された地域の住民と比べてどうなるか、注目されている。
人口比の死者数が特に高いベルギーは、5月11日から徐々にロックダウンを緩和する方針を発表した。そのベルギーの政府科学顧問はBBCに、「免疫パスポート」の導入に強く反対した。
「血清の状態によって人に、緑や赤のパスポートを渡すなど、とんでもない話だ」と、疫学の専門家、マルク・ファン・ランスト教授は言う。
「そのようなことをすれば、偽造につながるし、わざとウイルス感染する人も出るだろう。良くないアイデアだと言うだけでなく、非常に悪いアイデアだ」
英ユニヴァーシティ・コレッジ・ロンドンのマラ・マイニ教授はWHOの指摘に先立ち、抗体の持続期間と作用を正確に判断するため、信頼性の高い抗体検査が早急に必要だと話した。
「抗体の存在が、SARS-CoV-2ウイルスに対する免疫を意味するのかまだはっきりしないが、初期段階のデータからは、それなりの代替品になっている可能性がうかがえる。そのため、ロックダウン解除の参考情報として検討されている」と説明した。
BBC 4/26
https://www.bbc.com/japanese/52429471