新型コロナウイルスの感染者のうち、かなりの割合が非常に軽症か無症状であることがはっきりしてきた。
感染を広げうるこうした「見えない感染者」が、感染者数の実態を把握するうえでも、
パンデミックの対策を講じるうえでも混乱のもととなっている。
これまでのところ、無症状感染者の見積もりには大きなばらつきがある。
4月12日、米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は、無症状感染者の割合は50%にのぼる可能性があると示唆した。
これは、米国疾病対策センター(CDC)による以前の見積もりの約2倍の数字だ。
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗員・乗客では18%という低い数字が報告され、
武漢からチャーター機で日本に帰国した感染者の29%が無症状だったとの報告もある。
中国当局は4月から無症状感染者の追跡を開始しており、現時点でその割合を60%と報告している。
数字に大きな差があるのは「集団と研究デザインと研究のタイミングの違いにより大きな差が出ることを反映している」と、
世界保健機関(WHO)の感染症対策チームを率いた経験をもつ香港大学の福田敬二氏は説明する。
幸い、無症状感染の履歴を検出できる検査がある。血清中の抗体と呼ばれるタンパク質を調べる「抗体検査」だ。
これなら本人が気づいていなくても、回復から長い時間が経ってからでも、感染していたかどうかを調べられる。
「見えない感染者」の本当の数がわかれば、新型コロナウイルス感染症の実際の致死率が明らかになるうえ、
コロナウイルス抗体の働きを理解することでワクチン開発の助けにもなるだろう。
抗体検査を実施して感染症への免疫を持つ人々を特定できれば、ロックダウン下にある人々を仕事に戻らせることができるほか、
感染の第二波、第三波の対策にも役立つ。
「ウイルスの(遺伝子)検査については、ある意味しくじりました。けれども免疫段階の検査では、同じ失敗はしないでしょう」と、
米エール大学の社会学者で医師でもあるニコラス・クリスタキス氏は言う。
抗体検査は、集団が感染の第二波にどれだけ耐えられるかを見きわめるのにも役立つ。
多くの人に耐性があるなら、ウイルスが今回のように猛威を振るうことはないだろう。
しかし、耐性がある人が少ないなら、移動や交流の制限を早く緩めてしまうと第二波に見舞われる可能性が高い。
抗体検査は新型コロナウイルス感染症の致死率を特定するのにも役立つ。
英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の疫学者マーティン・ヒバード氏は、現時点の致死率は実際の数字より高めに出ているのではないかと見ている。
これまでに確認されている感染者の多くは症状を訴えて病院を受診したときに診断されているため、
科学者が見ているのは病院での致死率である。診断されなかった軽症者も算入されれば、全体の致死率は下がるだろう。
最後に、抗体検査が広く行われるようになれば、新型コロナウイルスに対する免疫応答について、多くの情報を収集することができるだろう。
SARSとの比較やアカゲザルを使った研究から、免疫は1年以上持続する可能性が示唆されているものの、現時点では、免疫応答の持続期間や強度はわかっていない。
「パンデミックを終わらせるのは免疫の出現です」と、エール大学のクリスタキス氏は言う。
「ウイルスは、感染できるすべての人に到達するまで感染を続けます。最終的に感染拡大を止めるには、自然に感染するかワクチンの接種により免疫をつけるしかありません」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/042000250/?P=1