新型コロナウイルスの感染が中東で最も深刻なイランをめぐり、「感染者・死者数は実態より低く公表されている」との見方が強まっている。病院は検査キットやマスク、手袋などが足りず、統制不能な状況に陥っているようだ。国威発揚を優先したことで被害が深刻化した疑いがあり、国民の犠牲をかえりみず体制護持に固執する指導部の姿勢がうかがえる。昨年末からの反政府デモに続く新型コロナの感染拡大で、国民の指導部に対する不信感はさらに膨らんでいる。(カイロ 佐藤貴生)
■サッカー場で治療
英BBC放送(電子版)は3月20日、イランでも新型コロナの感染が深刻なギラン、ゴレスタン、マザンダランの北部3州の複数の病院関係者の証言を匿名で報じた。
それによると、患者が多すぎて対応できず、サッカースタジアムにベッドを運んで処置している地域がある。1日に平均5人が死亡しているという病院では、毎日の受診希望者300人のうち6〜7割が新型コロナに感染しているとみられるが、病状が重い者しか治療を受けることができず、統計には受診した者しか算入していないという。
多くの医療関係者が死亡したとの証言もあった。国内メディアが手当てを受けている様子を放映した25歳の看護師が死亡した際、政府は「感染による死亡ではない」と述べたが、看護師団体はその発表を否定した。指導部に対する医療従事者の怒りの大きさを物語っているようだ。
世界保健機関(WHO)によると、3月30日現在のイランの感染者は約3万8000人。死者は2600人を超えた。ただ、ある1日についてイラン政府が公表した感染による死者数は、BBCが調査で把握した人数の6分の1だったという。取材に応じた医師の一人は「病院勤務者の士気は極めて低い」と述べた。
■国民を動員せよ
米国務省は3月下旬、「イランでは2月10日に63歳の女性が新型コロナに感染して死亡していた」と発表した。イラン政府が初の感染者が出たと発表したのは、それより1週間以上遅い2月19日のことだ。
2月11日はイスラム教シーア派の法学者による政権奪取につながったイラン革命から41年となる記念日で、各地で国民を動員して祝賀行進が行われた。米国の発表が事実だとすれば、革命の大義である「反米」での団結と国威発揚をアピールするために感染の事実を隠蔽(いんぺい)した疑いが強い。
また、イラン政府が初感染を公表した2日後の2月21日には国会選挙の投票が行われた。国民から信任されていることを示すため、指導部としては少しでも投票率を上げる必要があったといわれる。首都テヘランの20代の男子学生は「有権者を動員するため、政府が感染に関する情報を隠したとして、多数の批判がSNS上に出た」と話した。
しかし、イランの最高指導者ハメネイ師らは米国を念頭に「生物化学兵器」が使われたと述べ、指導部の責任を認めていない。
昨年11月にはガソリン値上げ、今年1月にはウクライナ旅客機撃墜の「隠蔽」を機に反政府デモが起き、体制の権威はすでに大きく傷ついている。国民に見透かされても感染拡大は「米国の仕業だ」と強弁せざるを得ない姿が、指導部の苦境を象徴している。
■脅威軽視の代償
BBCによると、イランに滞在した者の入国を発端に感染が広がった国は、イラクやペルシャ湾岸諸国など16カ国に上る。世界各地のシーア派信徒が訪れるイラン中部の聖都コムなどでは、聖職者が「聖地は癒しの場で、宗教的にも肉体的にも病を治すために訪れるべきだ」などと訴え、立ち入り禁止措置が遅れた。
一連の経過からは、イラン指導部が新型コロナの脅威を過小評価していた可能性が浮かび上がる。
米の制裁再開で経済低迷が深まるなか、周辺国が直行便停止や国境封鎖に乗り出し、イランの経済がさらに衰えることは必至だ。イランと同じくシーア派が人口の多数を占め、商取引などの面で頼りにしてきた隣国イラクとの関係にも陰りがみえる。
4/12(日) 22:00配信 全文はソース元で
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200412-00000507-san-m_est
■サッカー場で治療
英BBC放送(電子版)は3月20日、イランでも新型コロナの感染が深刻なギラン、ゴレスタン、マザンダランの北部3州の複数の病院関係者の証言を匿名で報じた。
それによると、患者が多すぎて対応できず、サッカースタジアムにベッドを運んで処置している地域がある。1日に平均5人が死亡しているという病院では、毎日の受診希望者300人のうち6〜7割が新型コロナに感染しているとみられるが、病状が重い者しか治療を受けることができず、統計には受診した者しか算入していないという。
多くの医療関係者が死亡したとの証言もあった。国内メディアが手当てを受けている様子を放映した25歳の看護師が死亡した際、政府は「感染による死亡ではない」と述べたが、看護師団体はその発表を否定した。指導部に対する医療従事者の怒りの大きさを物語っているようだ。
世界保健機関(WHO)によると、3月30日現在のイランの感染者は約3万8000人。死者は2600人を超えた。ただ、ある1日についてイラン政府が公表した感染による死者数は、BBCが調査で把握した人数の6分の1だったという。取材に応じた医師の一人は「病院勤務者の士気は極めて低い」と述べた。
■国民を動員せよ
米国務省は3月下旬、「イランでは2月10日に63歳の女性が新型コロナに感染して死亡していた」と発表した。イラン政府が初の感染者が出たと発表したのは、それより1週間以上遅い2月19日のことだ。
2月11日はイスラム教シーア派の法学者による政権奪取につながったイラン革命から41年となる記念日で、各地で国民を動員して祝賀行進が行われた。米国の発表が事実だとすれば、革命の大義である「反米」での団結と国威発揚をアピールするために感染の事実を隠蔽(いんぺい)した疑いが強い。
また、イラン政府が初感染を公表した2日後の2月21日には国会選挙の投票が行われた。国民から信任されていることを示すため、指導部としては少しでも投票率を上げる必要があったといわれる。首都テヘランの20代の男子学生は「有権者を動員するため、政府が感染に関する情報を隠したとして、多数の批判がSNS上に出た」と話した。
しかし、イランの最高指導者ハメネイ師らは米国を念頭に「生物化学兵器」が使われたと述べ、指導部の責任を認めていない。
昨年11月にはガソリン値上げ、今年1月にはウクライナ旅客機撃墜の「隠蔽」を機に反政府デモが起き、体制の権威はすでに大きく傷ついている。国民に見透かされても感染拡大は「米国の仕業だ」と強弁せざるを得ない姿が、指導部の苦境を象徴している。
■脅威軽視の代償
BBCによると、イランに滞在した者の入国を発端に感染が広がった国は、イラクやペルシャ湾岸諸国など16カ国に上る。世界各地のシーア派信徒が訪れるイラン中部の聖都コムなどでは、聖職者が「聖地は癒しの場で、宗教的にも肉体的にも病を治すために訪れるべきだ」などと訴え、立ち入り禁止措置が遅れた。
一連の経過からは、イラン指導部が新型コロナの脅威を過小評価していた可能性が浮かび上がる。
米の制裁再開で経済低迷が深まるなか、周辺国が直行便停止や国境封鎖に乗り出し、イランの経済がさらに衰えることは必至だ。イランと同じくシーア派が人口の多数を占め、商取引などの面で頼りにしてきた隣国イラクとの関係にも陰りがみえる。
4/12(日) 22:00配信 全文はソース元で
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200412-00000507-san-m_est