https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/04/4-104.php
<パンデミックが引き起こすもう一つの悲劇、それは亡くなった人と満足な別れができないことだ>
新型コロナウイルスの感染者と死者が留まるところを知らずに増加の一途をたどっているインドネシアで感染による死者の葬儀、埋葬が
「さらなる感染の拡大につながる」として緊急対応を迫られる事態になっている。
インドネシア国内で最も感染者数が多い首都のジャカルタでは州政府によって「感染者埋葬に関するガイドライン」が策定され、
コロナウイルスによる死者はこのガイドラインに沿った葬儀、埋葬が義務付けられることになっている。
人口が世界第4位のインドネシアは、約2億6000万人の国民の約88%をイスラム教徒が占める。
イスラム教徒が死亡した場合、教義により死後24時間以内に洗体して白い布で包んだだけの状態で遺体を土葬することになっている。
この24時間以内の埋葬のため、平時でも家族や親族・友人が遠隔地や海外にいると葬儀に間に合わないケースがよくあるという。
今回ジャカルタ州政府が打ち出したガイドラインは土葬のイスラム教徒あるいはキリスト教徒に限らず、一部で火葬を行う仏教徒なども含め
全ての宗教に関わらず適用されることになっている。
■感染・感染濃厚死者は死後4時間で埋葬
ジャカルタ市内のコロナ感染患者の治療、入院が指定されている特定病院で死亡した感染者あるいは陽性が確定していないものの
感染している可能性のある死者は全て死後4時間以内の埋葬が義務付けられることになった。
患者が死亡すると病院内の完全に隔離された部屋で空気、水分を完全にシャットアウトするプラスチックで遺体を厳重に密封。
その上からイスラム教徒の場合は教義に従った白い布(カファン)で包み、再度プラスチックで密封したうえ、さらに遺体袋に収めてから柩に安置する。
そしてその柩を同じプラスチックで再度密封し、消毒液を散布してから搬出、霊柩車で墓地に運ぶようにガイドラインは求めている。
ジャカルタ州内では東ジャカルタのポンドック・ランゴン墓地、西ジャカルタのトゥガル・アルール墓地の2カ所の公共墓地が感染者あるいは
感染の疑いのある死者の埋葬指定墓地となっている。
墓地で埋葬作業にあたる作業員にはマスク、手袋に加えて防護服の着用が義務付けられ、作業終了後には消毒液の噴霧を受け、
さらに使用したマスク、手袋、防護服はその場ですぐに焼却処分にするという徹底ぶりだ。
死後4時間での埋葬となるため通常の葬儀は執り行うことが実質的に不可能になり、家族や親戚・友人らは墓地での埋葬を離れた場所から
マスク着用のうえ見守ることが許されるという状況だ。
これはコロナ関連の死者と最後の別れを惜しむこともできない日本を含めた感染が拡大している諸外国と同じ状況である。
■警察が葬儀支援と周辺警戒警備
ただ、火葬がほとんどの日本と異なるのは、墓地周辺の住民による反対運動である。
ジャカルタ市内の2か所の指定墓地周辺の住民は
「コロナ感染者の埋葬は土葬ということもあり、墓地周辺へのコロナウイルスの感染拡大の可能性が完全には否定できない」として感染者あるいは
感染の疑いのある死者の埋葬に強く反対を唱え、霊柩車の到着や埋葬作業の妨害をするケースも報告される事態となっている。
こうした状況を重視したジャカルタ首都圏警察では4月6日から2カ所の指定墓地に警察官による特別チームの派遣を決めた。
各墓地にそれぞれ約30人の警察官を配置して、うち4人が防護服などを着用した完全防備態勢で埋葬作業員の支援に当たるほか、
残る26人が墓地周辺での反対住民らによる搬入・埋葬作業への妨害行為の取締りや、立ち会う家族の警備に当たることになった。
ジャカルタ州当局によるとこれまでにジャカルタ市内でガイドラインの手順に従って埋葬した死者は639人に達しているというが、
このうち検査で陽性と判定されたコロナウイルス感染者は126人に留まっている。
つまり残る513人の死者は、「感染が濃厚ではあるが確定していない」ケースであり、保健省が毎日発表している感染死者数の統計には含まれていない
「隠れ感染死者」の可能性が高い数字という。
コロナウイルスの感染拡大という非常事態だけに死者との別れを含めて葬儀、埋葬の様相が一変し、残された遺族や知人は戸惑いを隠せないようだ。
警察による警戒警備の中、あわただしく離れた場所から死者を見送る家族の様子が連日新聞やテレビで伝えられている。