国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の名古屋市の負担金支出について検討を重ねた第三者委員会が二十七日、未払いとなっている一部を「支払うべきではない」とする報告書をまとめた。報告書案への委員五人の賛否は三対二と割れた。この日の最終会合で五人が提出した個別意見の要旨は以下の通り。
【危機意識なく準備】
<賛成> 山本庸幸座長(前最高裁判事、元内閣法制局長官) 芸術家側と行政側の間には、長年つちかわれた「金は出すけれど口は出さない」の慣行があるが、今回の一連の出来事は、その慣行が成り立つ前提が崩れたことにある。芸術監督一人に責任を負わせるのは公平に欠ける。実行委員会の会長(大村秀章知事)が強い危機意識を持たずに、普通の芸術展の延長のようにとらえて、漫然と展示の準備を進めて本番を迎えたところに、一連の大きな原因があるように思う。
【交付撤回まで言えぬ】
<反対> 中込秀樹副座長(元名古屋高裁長官) 市の交付決定には、事情の変更により特別の必要が生じた時は負担金の全部または一部を取り消す条項が付されている。今回市が負担金を支払わないとする理由は、実行委の運営会議が開かれないまま重要事項が決定されたという手続き上の問題。開催中断はトリエンナーレの内容から発生した事態で、運営会議が開かれなかったことによるものではない。市の言い分は理解可能ではあるが、負担金交付決定の撤回を正当化できる理由にまで高まっているとは言えないのではないか。
【市長意思考慮されず】
<賛成> 浅野善治委員(大東文化大副学長、名古屋市法制アドバイザー) 河村たかし市長が実行委の一員として主体的に参画することを想定して市議会が負担金支出を議決したことを考えると、市長の意思が考慮されず実行委会長の判断により運営が進められ、「表現の不自由展・その後」の中止および再開が決定された実態は、負担金交付条件の「事情の変更により特別の必要が生じたとき」に該当する。今後の市の関わり方も、同様の運営が行われないことが制度的に明確にされなければ、抜本的な見直しも必要である。
【政治的対立あおる】
<賛成> 田中秀臣委員(上武大教授) 報告書は法律論的な観点から問題が整理され、負担金についての考えが説得的なものになっているので賛同する。表現の不自由展は、事前に重大な警備上の過度なリスクが発生することが分かっていた。政治的な対立をあおり、社会的な分断を巻き起こす作品群であるからだ。市民は表現の自由や芸術の多様性を愛しているが、自分たちの身体的・精神的な傷害をこうむる可能性まで引き受けさせることを行政が行うのは道理に外れている。
【不交付は狭量では】
<反対> 田中由紀子委員(美術批評、ライター) 実行委会長代行である市長からの運営会議の開催要請が無視され、規約が順守された運営がなされなかったことは大きな問題で、今後の体制見直しが求められる。しかし、事務局や現場スタッフの努力もあり、表現の不自由展のほかは運営上の大きな問題もなく七十四日間の会期を無事に終えたという実績に対して、交付予定であった三千四百万円を不交付とするのは、あまりにも狭量ではないか。
2020年3月28日
https://www.chunichi.co.jp/article/aichi/20200328/CK2020032802000018.html
【危機意識なく準備】
<賛成> 山本庸幸座長(前最高裁判事、元内閣法制局長官) 芸術家側と行政側の間には、長年つちかわれた「金は出すけれど口は出さない」の慣行があるが、今回の一連の出来事は、その慣行が成り立つ前提が崩れたことにある。芸術監督一人に責任を負わせるのは公平に欠ける。実行委員会の会長(大村秀章知事)が強い危機意識を持たずに、普通の芸術展の延長のようにとらえて、漫然と展示の準備を進めて本番を迎えたところに、一連の大きな原因があるように思う。
【交付撤回まで言えぬ】
<反対> 中込秀樹副座長(元名古屋高裁長官) 市の交付決定には、事情の変更により特別の必要が生じた時は負担金の全部または一部を取り消す条項が付されている。今回市が負担金を支払わないとする理由は、実行委の運営会議が開かれないまま重要事項が決定されたという手続き上の問題。開催中断はトリエンナーレの内容から発生した事態で、運営会議が開かれなかったことによるものではない。市の言い分は理解可能ではあるが、負担金交付決定の撤回を正当化できる理由にまで高まっているとは言えないのではないか。
【市長意思考慮されず】
<賛成> 浅野善治委員(大東文化大副学長、名古屋市法制アドバイザー) 河村たかし市長が実行委の一員として主体的に参画することを想定して市議会が負担金支出を議決したことを考えると、市長の意思が考慮されず実行委会長の判断により運営が進められ、「表現の不自由展・その後」の中止および再開が決定された実態は、負担金交付条件の「事情の変更により特別の必要が生じたとき」に該当する。今後の市の関わり方も、同様の運営が行われないことが制度的に明確にされなければ、抜本的な見直しも必要である。
【政治的対立あおる】
<賛成> 田中秀臣委員(上武大教授) 報告書は法律論的な観点から問題が整理され、負担金についての考えが説得的なものになっているので賛同する。表現の不自由展は、事前に重大な警備上の過度なリスクが発生することが分かっていた。政治的な対立をあおり、社会的な分断を巻き起こす作品群であるからだ。市民は表現の自由や芸術の多様性を愛しているが、自分たちの身体的・精神的な傷害をこうむる可能性まで引き受けさせることを行政が行うのは道理に外れている。
【不交付は狭量では】
<反対> 田中由紀子委員(美術批評、ライター) 実行委会長代行である市長からの運営会議の開催要請が無視され、規約が順守された運営がなされなかったことは大きな問題で、今後の体制見直しが求められる。しかし、事務局や現場スタッフの努力もあり、表現の不自由展のほかは運営上の大きな問題もなく七十四日間の会期を無事に終えたという実績に対して、交付予定であった三千四百万円を不交付とするのは、あまりにも狭量ではないか。
2020年3月28日
https://www.chunichi.co.jp/article/aichi/20200328/CK2020032802000018.html