直径約4メートルの鋳込み土坑跡(手前白線範囲)の中心から出土した、直径約1・4メートルの大型鍋釜の鋳型=草津市南笠町の黒土遺跡で、草津市教委提供
発見された鋳込み土坑と鋳型から推測される大型鍋釜の鋳造イメージ=草津市教委提供
草津市南笠町の「黒土(くろつち)遺跡」から出土した国内最古級の鋳造関連遺構群は、高度な鋳造技術が当時の近江に伝わっていたことを指し示す、重要な発見となった。同遺跡から北東約300メートルにある「榊差(さかきざし)遺跡」(同市南笠町)でも高度な鋳造技術を示す遺物が相次いで見つかっており、草津は当時、最先端技術を駆使した鋳造製品の一大産地だったと言えそうだ。【礒野健一】
黒土遺跡からは、飛鳥時代末〜奈良時代初頭(7世紀末〜8世紀初頭)のものとみられる、鋳造関連遺構群を発見。獅子(しし)を模した鍋や釜の脚部「獣脚」の鋳型も見つかった。榊差遺跡からは同時代のものとされる獣脚の鋳型のほか、仏像の背後に取り付ける「光背(こうはい)」の鋳型も発見されている。
なぜ、古代の草津が鋳造製品の一大生産拠点になったのか。
黒土遺跡の調査を担当した市教委歴史文化財課の岡田雅人副参事は、理由として(1)古代の主要街道・東山道が通り、物流が盛ん(2)東にある瀬田丘陵から、鋳造に欠かせない良質な炭や薪(まき)、鋳型や溶鉱炉に適した粘土を容易に採取できた(3)渡来系氏族が多く住んでいた――などを挙げる。近江大津宮遷都(667年)前後から生産量を増した草津の鉄製品は、藤原京や平城京にも供給され、古代律令国家の形成に大きな役割を果たしたとみられる。
今回出土した大型釜鋳型から作られた釜は、開口部の直径が1・15メートル以上と、同時代の鋳造鉄製品としては最大級のものと推測される。岡田副参事はその用途を「古代寺院が多くの鉄製鍋釜を所有していたことは、当時の資財帳から明らか。今のサウナに当たる、寺院の『温室』用の湯炊き釜や、大人数の調理に使われたと考えられる」と推測する。
黒土、榊差両遺跡を含むJR南草津駅の南西地域での発掘調査は、大型商業施設や住宅地となる「南草津プリムタウン土地区画整理事業」の一環として、2015年度から20年3月末までの予定で続けられている。岡田副参事は「発掘調査は間もなく終わるが、出土した遺物の整理調査は21年度末まで続く。当時の鋳造技術の詳細も見えてくるのではないか」と期待した。
毎日新聞 2020年3月12日
https://mainichi.jp/articles/20200312/ddl/k25/040/322000c?inb=ra
発見された鋳込み土坑と鋳型から推測される大型鍋釜の鋳造イメージ=草津市教委提供
草津市南笠町の「黒土(くろつち)遺跡」から出土した国内最古級の鋳造関連遺構群は、高度な鋳造技術が当時の近江に伝わっていたことを指し示す、重要な発見となった。同遺跡から北東約300メートルにある「榊差(さかきざし)遺跡」(同市南笠町)でも高度な鋳造技術を示す遺物が相次いで見つかっており、草津は当時、最先端技術を駆使した鋳造製品の一大産地だったと言えそうだ。【礒野健一】
黒土遺跡からは、飛鳥時代末〜奈良時代初頭(7世紀末〜8世紀初頭)のものとみられる、鋳造関連遺構群を発見。獅子(しし)を模した鍋や釜の脚部「獣脚」の鋳型も見つかった。榊差遺跡からは同時代のものとされる獣脚の鋳型のほか、仏像の背後に取り付ける「光背(こうはい)」の鋳型も発見されている。
なぜ、古代の草津が鋳造製品の一大生産拠点になったのか。
黒土遺跡の調査を担当した市教委歴史文化財課の岡田雅人副参事は、理由として(1)古代の主要街道・東山道が通り、物流が盛ん(2)東にある瀬田丘陵から、鋳造に欠かせない良質な炭や薪(まき)、鋳型や溶鉱炉に適した粘土を容易に採取できた(3)渡来系氏族が多く住んでいた――などを挙げる。近江大津宮遷都(667年)前後から生産量を増した草津の鉄製品は、藤原京や平城京にも供給され、古代律令国家の形成に大きな役割を果たしたとみられる。
今回出土した大型釜鋳型から作られた釜は、開口部の直径が1・15メートル以上と、同時代の鋳造鉄製品としては最大級のものと推測される。岡田副参事はその用途を「古代寺院が多くの鉄製鍋釜を所有していたことは、当時の資財帳から明らか。今のサウナに当たる、寺院の『温室』用の湯炊き釜や、大人数の調理に使われたと考えられる」と推測する。
黒土、榊差両遺跡を含むJR南草津駅の南西地域での発掘調査は、大型商業施設や住宅地となる「南草津プリムタウン土地区画整理事業」の一環として、2015年度から20年3月末までの予定で続けられている。岡田副参事は「発掘調査は間もなく終わるが、出土した遺物の整理調査は21年度末まで続く。当時の鋳造技術の詳細も見えてくるのではないか」と期待した。
毎日新聞 2020年3月12日
https://mainichi.jp/articles/20200312/ddl/k25/040/322000c?inb=ra