【ワシントン=河浪武史】米労働省が10日発表した2019年12月の雇用統計(速報値、季節調整済み)は、景気動向を敏感に映す非農業部門の就業者数が前月比14万5千人増えた。市場予測(約18万人増)を下回ったものの、失業率は半世紀ぶりの低さで雇用情勢は底堅い。ただ、労働市場の拡大は賃金が比較的低い一部のサービス産業に偏り、米有権者には所得格差への不満が残る。
直近3カ月の雇用者数の伸びは月平均18万4千人と、米連邦準備理事会(FRB)が巡航速度とみる月10万人を上回っている。雇用の減速懸念は和らいでおり、FRBは利下げを当面休止する考えを表明している。失業率は前月と同じ3.5%だった。
堅調な雇用情勢はトランプ大統領の再選シナリオに追い風となる。政権発足3年弱で就業者数は669万人増え、失業率も大幅に低下した。金融危機の直後だったオバマ前政権は同期間で就業者数が116万人減、ブッシュ(子)政権もITバブルの崩壊などで同211万人減と逆風に見舞われたのに比べ、雇用環境の底堅さは際立つ。貿易戦争で企業心理が悪化したものの、FRBの3回の利下げで景気の先行き不安も和らいでいる。
もっとも、雇用の拡大は業種によってばらつきがある。米労働市場では直近1年間で就業者数が211万人増えたが、けん引役はサービス業(177万人増)だ。中でもレジャー・接客業が39万人増、ヘルスケア産業は40万人増と内需関連の伸びが大きい。
一方、トランプ政権の保護主義政策を支持してきた製造業は直近1年間の伸びが4万6千人にとどまる。米国の国際競争力を支える情報産業は1万2千人増、資産価格の上昇が業績を押し上げる金融業も、雇用増は12万2千人にすぎない。
米経済は完全雇用に近づいたにもかかわらず、賃上げ圧力の鈍さが懸念材料だ。19年12月の平均時給は28.32ドルと、前年同月比2.9%増にとどまり、再び3%台を割り込んだ。
米経済全体の平均賃金が上向かないのは、雇用の受け皿となってきたサービス産業の賃金が伸び悩んでいるためだ。レジャー・接客業の平均時給は17ドルと全体平均より大幅に低い。賃金水準の高い情報産業(42ドル)や金融業(36ドル)の就業者は大きく増えておらず、米経済の所得格差はなかなか埋まらない。
16年大統領選の「トランプ旋風」は、雇用不安におびえる中西部の製造業の労働者が熱狂的に支えた。足元では失職への不安は和らいだものの、職を得ても満足な賃金が得られない所得格差への不満が強まる。民主党左派は国民皆保険と富裕層増税で格差を是正すると主張しており、11月の大統領選に向けた大きな論点となる。
2020/1/10 22:31
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54305910Q0A110C2EA1000/