アメリカ・リオランチョのインテル半導体製造工場(2013年7月17日)
(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)
インテルが“謝罪”の書簡を公表
インテルのエグゼクティブ・バイスプレジデント、ミッシェル・ジョンソン・ホルタス(Michelle Johnston Holthaus)氏は2019年11月20日、PCメーカーやサーバーメーカーなどのプロセッサのカスタマーにあてた書簡「Intel Supply Update」を公表した。
インテルはPC用プロセッサで約80%、サーバー用プロセッサで約96%のシェアを独占している世界最大のプロセッサメーカーである。
サーバーとはデータをストレージするための専用のコンピュータで、アマゾン、マイクロソフト、グーグルなど、クラウドメーカーが競って建設しているデータセンタに大量に使われる。
ところが、2016年に10nm(ナノメートル、1nmは1メートルの10億分の1)プロセスの立ち上げに失敗したことが原因で、2018年以降、需要に見合うプロセッサを供給できない状態が続いていた。
このような中、2019年5月に行われた投資家向けミーティングで、「当社の10nmプロセッサは、これまで出荷予定に遅れが生じていたが、今回は、2018年に発表したスケジュール通り、2019年6月に出荷を開始できる見込みだ」と説明し、2019年後半にはプロセッサの供給不足が解消できる目途が立ったことをアピールした(EE Times Japan「10nmプロセッサも19年6月に出荷:Intelが7nm開発にメド、2021年に市場投入を予定」2019年5月13日)。
しかし残念ながら、インテルは上記計画通りに10nmプロセッサを製造することができず、そのカスタマーに対して上記書簡を公表し、“異例の謝罪”を行うとともに、TSMCやサムスン電子などに、プロセッサの生産委託を行う”異常事態“に陥った。
本稿では、まず、10nmプロセスの立ち上げに失敗したインテルがなぜプロセッサの供給不足に陥ってしまったのかを説明する。次に、インテルのプロセッサ供給不足が半導体メモリの大不況を招いてしまったことを論じる。そして、2020年においても、インテルはプロセッサを十分供給することができず、したがって半導体メモリ不況は当分続くかもしれないことを指摘する。
新年早々、半導体業界関係者にとっては不景気な記事になってしまうが、これが現実なのだ。
インテルの“チック・タック”モデルとは
インテルは、2年周期で微細化を進める“チック・タック”モデルに基づいて、プロセッサをリリースしてきた(図1)。
“チック・タック”モデルとは、例えば、2012年にプロセッサの基本設計を変更せずに32nmから22nmに微細化した世代を“チック”と呼び、その翌年の2013年に微細性は22nmのままで基本設計を更新した世代を“タック”と呼ぶ。つまり、“チック・タック”と時計のように、毎年、新しいプロセッサをリリースするのが、インテルのプロセッサのビジネスモデルだった。
この“チック・タック”モデルは、2015年まではうまくいっていた(図2)。ところが、2015年の14nmから、2016年の10nmに微細化する際に、この“チック・タック”モデルが破綻した。10nmプロセスが立ち上がらなかったからだ。
そのため、「14nm+」と称するプロセスで2世代のプロセッサを製造したが、その後もなかなか10nmプロセスが立ち上がらず、さらに「14nm++」と称するプロセスでさらに2世代のプロセッサを製造した。要するにインテルでは、14nmプロセスが6世代にわたって延命化が図られるという、かつてない異常事態が起きていた。
このような中で、冒頭で述べた通り、インテルは「2019年6月に10nmプロセッサの出荷が開始できる目途が立った」と言ったわけである。しかし、やはりインテルは10nmプロセッサを量産することができず、プロセッサの供給不足を謝罪せざるを得ない状況になった。
では、インテルで10nmプロセスが立ち上がらないと、なぜ、プロセッサの供給不足になってしまうのだろうか?
全文はソース元で
2020.1.3 JBpress
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58805