訪日観光客の人気が続く京都市では、観光公害(オーバーツーリズム)の問題が深刻になってきた。祇園では地元の自治組織が写真の無許可撮影禁止の呼び掛けを開始。市は富裕層誘致による「量より質」の観光戦略を打ち出す。市中心部ではホテルが増加し地価が高騰、オフィス不足が深刻化している。周縁部の一部地域で建物の高さ規制を緩和することなどを盛り込んだ都市計画を決定した。
芸舞妓(げいまいこ)を無断で撮らないで――。観光客による迷惑行為の増加に悩む京都・祇園で、地元の自治組織が2019年10月下旬から写真や動画の無許可撮影の禁止を呼び掛け始めた。海外客にも分かりやすいイラストと文字の立て看板とポスターで周知。強制力はないが、撮影マナー違反の抑止効果を狙う。
対象エリアは祇園の目抜き通りである花見小路通を中心とした祇園町南側地区一帯の私道内。景観の保全に取り組む祇園町南側地区協議会が実施する。撮影する場合は協議会の許可を得るよう求める。私道の入り口にポスターを張り、公道との境目を分かりやすくする。
祇園は伝統的な木造家屋や石畳の風情が人気で、京都市を訪れる訪日客の4割が観光するとされる。近年、芸舞妓を無理やり追いかけたり店の敷地内に踏み込んだりする迷惑行為が増加。周辺の店舗から「風情ある雰囲気が壊され常連客の足が遠のく」との声も上がっている。京都市などは同9月末から観光客にスマホのプッシュ通知でマナーを周知したり、巡視員が注意したりする取り組みを始めた。
京都市や観光協会などは富裕層の誘致に力を入れる。同9月30日の「海外富裕層受入体制強化のための人材育成セミナー」には、当初の定員の2倍にあたる約120人の宿泊業者や観光業者などが集まった。
個人旅行のコンサルティングを手掛けるリージェンシー・グループ(東京・港)の沼能功会長兼社長は「普段は入れない本物の場所や物について丁寧に文化背景まで説明する。良い意味で特別扱いすることが必要」と指南。3〜4泊で500万円近く消費する海外富裕層もいるといわれ、参加者からは「想像以上にハイクラスな観光客がいる。受け入れの仕方を考えないと」との声が聞かれた。
京都市は16年度に海外富裕層誘致に向け7自治体が設立した「日本ラグジュアリートラベルアライアンス」の中心メンバー。客数ではなく消費額を重視する戦略を進める。誘致活動が奏功し、東山の「パークハイアット京都」や金閣寺近くの「アマン京都」など高級ホテルの開業が相次ぐ。
ただ、市中心部ではホテルが乱立。オフィスを取り壊してホテルが建つ一方で、大型オフィス向け不動産ビルの新設は11年以降は途絶えたままだ。「空き室が出次第、事前に不動産事業者に要望を伝えて待ち構えていた企業に回すため、市場には空き室は出回らない」(市内不動産事業者)という。
オフィス不足に対応するため、京都市はJR丹波口駅西側で建物の高さ規制を緩和。敷地面積が1000平方メートル以上など一定の条件をクリアした事務所と研究施設を対象に、規制の上限を6階建て程度となる高さ20メートルから9〜10階程度の31メートルまで引き上げた。
このほか一部地域の容積率緩和も盛り込んだ。JR二条駅の西側から西大路通までの御池通沿いのほか、京セラや任天堂の本社などが集積する京都駅南側の「らくなん進都」、京都先端科学大学のキャンパスにほど近い葛野大路通沿いなどが対象となる。
用地が不足し景観保持も重視される市中心部での開発が難しいなか、市は周縁部の高度利用を模索する。丹波口駅や二条駅、京都駅南部は京都駅からも高速道路の出入り口からも近い。地価は市内で最高値の四条通一等地の1割に満たない場所もあり、割安感もある。まとまった広さを確保できるため研究開発拠点の候補地にもなり得る点をアピールする。
「『周辺部でもオフィスを構えたい』という需要がどの程度あるのか見込みづらく、収益性を考えると二の足を踏む」(大手業者)といった声もある。京都が誇る景観への影響を最小限に抑えながら、オフィスを呼び込む取り組みが実を結ぶか注目される。
2019/12/30 2:00 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53940140X21C19A2LKA000/