東京都は27日、2030年に向けた政策目標や推進プロジェクトをまとめた長期戦略ビジョンを公表した。「安全・安心なまちづくり」に最も多く紙幅を割き、環状7号線内側エリアでの無電柱化や中小河川での調節池整備を進める。都心部やベイエリアなどでの次世代通信規格「5G」の重点整備や開業率向上もうたった。世界トップレベルの都市力を持つ東京をめざす。
小池百合子知事は27日の記者会見で1901年の新聞で描かれた未来の姿を引き合いに「100年前の絵が今、実現している。東京はこうあるべきだというビジョンを掲げるべきだ」と強調。デジタル化や気候変動が進むなか「今、種まきをしておかないと、国際都市間競争に後れる」と述べた。
公表したのは「『未来の東京』戦略ビジョン」で、柱となる20の戦略と具体策として118の推進プロジェクトを掲げた。分量は305ページに及ぶ。最多のページ数を割いたのが「安全・安心なまちづくり戦略」だ。
災害の脅威から都民を守るため、無電柱化の推進をうたった。27年度までに環状7号線内側エリアの都道全線で事業に着手する。これまで首都高速道路中央環状線の内側エリアで取り組み、都道の97%で完了した。重点整備エリアを広げ、新たに「無電柱化加速化戦略(仮称)」を策定する。
多発する局所的な集中豪雨対策では、中小河川で調節池の整備を加速する。12河川(28カ所)で約256万立方メートル分を整備済みだが、新たに約150万立方メートル分を事業化する。すでに工事に着手している調節池の新規稼働も合わせると、30年度までに約510万立方メートル分とほぼ倍増させる。
ICT推進ではデジタルの力で都民が質の高い生活を送る「スマート東京」を実現するとして、先行実施エリアを5つ定めた。「5G」の重点整備エリアとしていた西新宿と東京都立大学(南大沢キャンパス)に加え、都心部とベイエリア、島しょ地域の3カ所を明示した。
先行実施エリアで複数の交通機関を1つの交通サービスにまとめる「MaaS(マース)」や遠隔診療のほか、デジタルキャラクターと同じ空間にいる感覚を体験できるライブ、プロジェクションマッピングなどに取り組む。22年までに5カ所でモデルを確立し、30年には都内全域でサービスを展開できるようにする。
東京の稼ぐ力を高めるため、スタートアップ支援を充実させる。雇用保険適用事業所ベースで5%にとどまる都内開業率を30年度までに12%まで高めるとした。米調査会社のスタートアップ・エコシステムランキングは現状ランク外だが、世界5位以内をめざす。
イノベーション創出に向け、海外高度人材を5万人(18年で1万5900人)、外国企業を2400社(17年度で611社)まで増やす。都内キャッシュレス決済比率を25年までに50%に高め、金融とITを融合したフィンテックを振興する。英調査会社の国際金融センター指数で現状のアジア4位から1位をめざす。
今後は戦略ビジョンを実行に移す段階に入る。当面の実施計画を20年1月をめどに策定する。五輪・パラリンピック後には大会のレガシー(遺産)を踏まえ戦略ビジョンを見直し、完成版の長期戦略を公表する。
2019/12/27 15:50 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53901110X21C19A2L83000/