【ニューデリー=馬場燃】インドでイスラム教徒以外の不法移民に国籍を与える「国籍法改正案」を巡る混乱が広がっている。イスラム教徒への差別だとの批判に加え、移民が増えることへの懸念から、大規模なデモが全国規模に拡大している。モディ政権はヒンズー至上主義を掲げており、国内の宗派対立がさらに深まる可能性もある。
改正案が議会上院で可決してから、18日で1週間になるが、デモが収束する兆しはない。改正案は2014年末までにインドに不法入国したバングラデシュ、アフガニスタン、パキスタン3カ国の出身者にインド国籍を与える内容だ。このうち、ヒンズー教徒やキリスト教徒、仏教徒などの6宗教の信者には国籍を与えるが、イスラム教徒は対象外だ。
インドではヒンズー教徒が80%を占め、イスラム教徒は14%、キリスト教徒は2%にとどまる。改正案は不法移民が増える恐れと、少数派のイスラム教徒排除への批判という2点から抗議が広がった。
最初に大規模な抗議デモが起きたのは、北東部のアッサム州。インド全土ではイスラム教徒は14%だが、同州では34%に上る。数千人規模のデモ隊と警官隊が衝突し、死者が出たほか、商店に放火するなど過激化した。同州では安倍晋三首相がモディ首相と16日に会談する予定だったが、治安悪化から直前にキャンセルが決まった。
15日に首都ニューデリーのイスラム系大学「ジャミア・ミリア・イスラミア」でデモが起きると抗議は全土に広がった。学生は「インドは信教に関係ない国だ」といったプラカードを掲げ、千人規模が抗議を繰り返した。治安部隊が催涙ガスや鉄棒で鎮圧を図り、100人規模の負傷者が出た。デリーでは地下鉄の運行も一部で停止した。
16日以降はインド全国の40近い大学にデモが拡大した。西部のマハラシュトラ州ではムンバイ大学やインド工科大学(IIT)ムンバイ校に千人規模の学生が集まり、南部のケララ州やタミルナド州などの大学でも学生の抗議が続いた。
学生が授業をボイコットする動きもあり、17日もデモは続いた。現在はイスラム教徒以外の学生もデモに参加するなど、抗議活動は広がり、インド政府は一部地域でインターネットを遮断している。
モディ首相は16日、デモの拡大を受け「インド人は何も心配することはない。改正案は長年迫害を受け、インド以外に行き場がない人々を対象にするものだ」とツイッターで見解を示した。ただ、イスラム教徒が9割を占める隣国バングラデシュの閣僚は反発し、インドへの訪問を急きょとりやめた。内政だけでなく外交にも影を落としている。
モディ氏は5月の総選挙にあたり、国籍法改正案の実現をマニフェスト(政権公約)に示していた。16年から議論してきたが、与党インド人民党(BJP)は議会の過半数を握る下院だけでなく、上院でも勢力が増した。このため冬の議会での可決につながった。
インドではイスラム教徒を排除する動きが一段と強まっている。モディ政権は8月にもイスラム教徒が多いカシミール地方の自治権剥奪を決めた。アッサム州で不法移民を取り締まる狙いから国民登録の名簿作成を決めた経緯もある。
2019/12/17 17:19 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53462820X11C19A2FF1000/