15歳生徒のアルバイト比率
<経済的な事情がなければ、日本では高校生のアルバイトは一般的には推奨されていないが......>
修学旅行の費用が高騰している。2016年の統計によると、高校2年生の保護者が支出した平均額は私立で11万2000円、公立でも8万2000円になる(文科省『子供の学習費調査』)。私立で高いのは想像がつくが、公立でも8万円超えとは驚きだ。行先に海外を選ぶ学校が増えているためだろう。
【チャート】OECD57カ国の15歳アルバイト実施率
経済的理由で参加できない生徒もいるのだから、親や教師にすれば実に忍びない。修学旅行は、正規カリキュラムの特別活動に属する授業だ。社会科の授業内容を織りまぜる学校も多い。経済的理由で修学旅行の機会を奪われるのは、教育を受ける権利の侵害とも言える。
しかし高校生ともなれば、10万円弱の費用くらいアルバイトをして自分で稼いだらどうか、という意見もある。社会勉強も兼ねて、という意味だ。生徒や保護者に対し、堂々とそれを言う高校もあるようだ(『AERA』2019年12月2日号)。
突飛な提案にも聞こえるが、諸外国ではよく聞く話だ。アメリカでは、家が裕福であってもアルバイトをして、遊興費や大学進学の費用を自分で稼いでいる生徒が少なくない。親にすれば、わが子に社会経験を積ませる目論見がある。
経済協力開発機構(OECD)の国際学力調査「PISA 2015」によると、アメリカの15歳生徒のアルバイト実施率は30.4%で、日本の8.1%よりもずっと高い。調査対象の57カ国・地域を高い順に並べると、<表1>のようになる。
<表1>
首位は北アフリカのチュニジアで、15歳生徒の半分近くがバイトをしている。上位には発展途上国が多いが、先進国でも実施率が高い国がある。ニュージーランドは36%、デンマークは33%、アメリカは30%で、英仏独も日本よりだいぶ高い。
日本の8.1%は下から2番目で、最下位は韓国の5.9%だ。受験競争が激しい国で、経済的に逼迫でもしていない限り、バイトをする生徒は少ないのだろう。それを禁止している学校も多い。
日本のデータで見ると、社会階層が下の生徒ほどバイトの実施率は高い傾向にある。社会階層スコア(世帯収入や両親の学歴などをもとに算出)に依拠して生徒を4つのグループに分け、バイトの実施率を出してみると、最も下の群(下層)は13.7%、最も上の群(上層)は3.9%だ。しかしイギリスだと下層が22.1%、上層が21.4%で階層差がほとんどない。イギリスの上層は、日本の下層よりもバイト実施率が高いのも興味深い。
切羽詰まった経済的理由とは違う、社会勉強の類のバイトが多いのだろう。<図1>は、15歳のバイト実施率の階層差をグラフにしたものだ。
<図1>
日本は明らかに「下層>上層」で、経済的理由によるバイトが大半であると思われる。対して欧米諸国では階層差は小さく、イギリスやスウェーデンではほぼない。ノルウェーでは、貧困層より富裕層の生徒の方がバイトをしている。
繰り返すが、バイトの意味合いが異なるのだろ。「社会勉強を兼ね、修学旅行の費用を自分で稼がせてください」という提案に戸惑う保護者もいるだろうが、海外ではすんなり受け入れられるはずだ。
高校の専門学科では、就業体験をもって実習に替えることができる(高等学校学習指導要領)。普通科でも就業体験を重視することになっているが、目的が明確な一定期間のアルバイトを単位認定することはできないだろうか。
選挙権付与年齢が18歳に下げられ、成人年齢も20歳から18歳に下げられることが決まった。高校生活において、社会との接点をもっと増やしてもいい。もちろん学業に支障が及ぶほどの児童労働は、社会の力で排除されねばならない。しかし、貧困対策を強調する余り、「働くこと=可哀想」というイメージを定着させるのは良くない。
<資料:OECD「PISA 2015 Results STUDENTS' WELL-BEING Volume III」>
12/18(水) 16:20配信 ニューズウィーク
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191218-00010001-newsweek-int