ヒアリ阻止、妙案アリません 東京港で繁殖 政府、水際対策本腰
2019年11月28日 夕刊
https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201911/CK2019112802000261.html
強毒を持つ南米原産の特定外来生物ヒアリの集団が東京港で見つかり、国内で定着することが危ぶまれている。ヒアリは繁殖力が強く、定着すれば人だけでなく農作物などにも大きな被害が出る可能性がある。政府も水際対策に本腰を入れ始めたが、相手は体長数ミリの「見えない脅威」。海外からの貨物に紛れ侵入するケースは後を絶たず、定着阻止の妙案は見いだせていないのが実情だ。
「防除の強化など対策の徹底が必要だ」。十一月二十四日、北九州市で開かれた日中韓三カ国の環境相会合。小泉進次郎環境相は会談後、中国にヒアリの流出防止を求めたことを明らかにした。中国も協力を約束したという。
国内では二〇一七年に兵庫県で初確認されて以降、現在まで十五都道府県で四十六件の侵入が確認されている。このうち侵入経路が判明したのは二十九件で、中国発や中国を経由した貨物が二十六件を占めた。
定着への危機感が高まったのは今年十月。東京港青海ふ頭のコンテナヤードで見つかった巣から、大量の女王アリが出てきたのがきっかけだ。巣は舗装の接ぎ目にあり、八百匹以上の働きアリに加え、幼虫や卵、羽の生えた繁殖可能な女王アリ五十六匹が含まれていた。
ヒアリの巣は複数の女王アリがいるのが特徴で、女王は春から秋にかけて各地へ飛散し、移動先で新たな巣を作る。青海ふ頭でも、繁殖のため一部が別の場所に拡散した可能性が高い。
既に定着した米国や中国では、貨物に紛れて列車やトラックで内陸部に運ばれるなどして分布が急拡大した。米国では電気機器の内部に巣を作り故障させたり、家畜が襲われたりする被害が報告され、経済的損失は年間七千億円に上るという。
ただ、環境省は数世代にわたり繁殖が続くことを「定着」と定義し、日本では「まだ定着を食い止められる」(担当者)との認識だ。
青海ふ頭は観光地として人気のお台場や来年の東京五輪・パラリンピック会場に近く、同省などはふ頭周辺二キロにある公園や学校を中心に巣の見落としがないか緊急調査を実施。ヒアリが定着している国と定期航路がある全国六十五港湾でも水際対策の強化に乗り出した。
海外の定着した地域ではヒアリ探知犬の育成も進むが、根絶にはほど遠い状況という。体長二・五〜八ミリの小型アリの侵入や拡散を食い止めるには、現段階では地道に探し出して駆除を徹底するしか手だてはない。
ヒアリの生態に詳しい昆虫学者の寺山守さんは、巣の状況から考えて、青海ふ頭に侵入後一年以上見過ごされてきたのではないかとみる。「侵入は続いており、次にどこで出現してもおかしくない。市民レベルで監視して早期発見、駆除に結びつけることが定着阻止の鍵になる」と話した。
<ヒアリ> 南米原産で赤茶色の小型アリ。体長2.5〜8ミリ。攻撃性が強く、毒針で刺されると腫れや激痛が生じ、強いアレルギー反応で死ぬこともある。公園や農耕地にドーム状の巣(アリ塚)を作り、集団で活動する。国際自然保護連合(IUCN)が選ぶ「世界の侵略的外来種ワースト100」や環境省の特定外来生物に指定されている。農作物被害や在来のアリを駆逐する生態系への影響も懸念される。
2019年11月28日 夕刊
https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201911/CK2019112802000261.html
強毒を持つ南米原産の特定外来生物ヒアリの集団が東京港で見つかり、国内で定着することが危ぶまれている。ヒアリは繁殖力が強く、定着すれば人だけでなく農作物などにも大きな被害が出る可能性がある。政府も水際対策に本腰を入れ始めたが、相手は体長数ミリの「見えない脅威」。海外からの貨物に紛れ侵入するケースは後を絶たず、定着阻止の妙案は見いだせていないのが実情だ。
「防除の強化など対策の徹底が必要だ」。十一月二十四日、北九州市で開かれた日中韓三カ国の環境相会合。小泉進次郎環境相は会談後、中国にヒアリの流出防止を求めたことを明らかにした。中国も協力を約束したという。
国内では二〇一七年に兵庫県で初確認されて以降、現在まで十五都道府県で四十六件の侵入が確認されている。このうち侵入経路が判明したのは二十九件で、中国発や中国を経由した貨物が二十六件を占めた。
定着への危機感が高まったのは今年十月。東京港青海ふ頭のコンテナヤードで見つかった巣から、大量の女王アリが出てきたのがきっかけだ。巣は舗装の接ぎ目にあり、八百匹以上の働きアリに加え、幼虫や卵、羽の生えた繁殖可能な女王アリ五十六匹が含まれていた。
ヒアリの巣は複数の女王アリがいるのが特徴で、女王は春から秋にかけて各地へ飛散し、移動先で新たな巣を作る。青海ふ頭でも、繁殖のため一部が別の場所に拡散した可能性が高い。
既に定着した米国や中国では、貨物に紛れて列車やトラックで内陸部に運ばれるなどして分布が急拡大した。米国では電気機器の内部に巣を作り故障させたり、家畜が襲われたりする被害が報告され、経済的損失は年間七千億円に上るという。
ただ、環境省は数世代にわたり繁殖が続くことを「定着」と定義し、日本では「まだ定着を食い止められる」(担当者)との認識だ。
青海ふ頭は観光地として人気のお台場や来年の東京五輪・パラリンピック会場に近く、同省などはふ頭周辺二キロにある公園や学校を中心に巣の見落としがないか緊急調査を実施。ヒアリが定着している国と定期航路がある全国六十五港湾でも水際対策の強化に乗り出した。
海外の定着した地域ではヒアリ探知犬の育成も進むが、根絶にはほど遠い状況という。体長二・五〜八ミリの小型アリの侵入や拡散を食い止めるには、現段階では地道に探し出して駆除を徹底するしか手だてはない。
ヒアリの生態に詳しい昆虫学者の寺山守さんは、巣の状況から考えて、青海ふ頭に侵入後一年以上見過ごされてきたのではないかとみる。「侵入は続いており、次にどこで出現してもおかしくない。市民レベルで監視して早期発見、駆除に結びつけることが定着阻止の鍵になる」と話した。
<ヒアリ> 南米原産で赤茶色の小型アリ。体長2.5〜8ミリ。攻撃性が強く、毒針で刺されると腫れや激痛が生じ、強いアレルギー反応で死ぬこともある。公園や農耕地にドーム状の巣(アリ塚)を作り、集団で活動する。国際自然保護連合(IUCN)が選ぶ「世界の侵略的外来種ワースト100」や環境省の特定外来生物に指定されている。農作物被害や在来のアリを駆逐する生態系への影響も懸念される。