巨大嵐のエネルギーから地震波、地形や季節などの条件も
未知の地震現象「ストームクエイク(stormquake)」が発見された。直訳すれば「嵐地震」だ。10月14日付けで地球物理学の専門誌「Geophysical Research Letters」に掲載された論文によると、巨大な嵐の猛烈なエネルギーから地震波のパルスが生じ、それが数千kmにわたって大陸中に伝わる可能性があるという。
「彼らの発見には驚きました」と、今回の研究に関わっていない米コロンビア大学の地震学者ヨーラン・エクストローム氏は言う。今回、研究チームは個々のストームクエイクが発する「爆発的な揺れ」を個別に特定したほか、それらを遡って沖合の発生源を突き止めることにも成功した。
世界の地震計ネットワークは成長を続けており、近年は、新しい手法でとらえられた振動を分類する研究が進められている。今回の研究も、そうした試みの1つである。得られた情報は、地球の内部構造の解明から海洋や氷の変動、ひいては気候変動の監視まで、科学者たちが地球の理解を深めるのに役立つはずだ。
米フロリダ州立大学の地震学者で今回の研究チームを率いたウェンユァン・ファン氏は、従来、この情報の多くは地震記録のノイズとして捨てられていたが、科学者たちは今、こうした「ノイズ」が役立つのではないかと考えている。
「これまでは、どこで何を探せばよいのか、わかっていなかったのです」と彼は言う。
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■異常な振動が現れてきた
ストームクエイクが発見されたのは偶然だった。2018年の夏、ファン氏らは超低周波地震を研究する手法を開発していた。超低周波地震は、ふつう地震と聞いて想像するような、地球の表面を引き裂く突然の激しい揺れとは違う、揺れの周期が非常に長い地震である。人間は超低周波地震の揺れには気づかないが、地震学者は高感度の地震計を使って、その地震波を特定できる。
「地震計は地面にくっつけた小さな耳のようなものです」と、米国の大学間地震学研究連合の地震地質学者ウェンディー・ボーホン氏は説明する。同氏は今回の研究には関与していない。地震計は、熱狂したスポーツファンがスタジアムで飛び跳ねたときの揺れや、頭上を通過する航空機が引き起こす振動から、遠くの地震の揺れまで、あらゆる振動を記録できる。
しかし、超低周波地震は長距離にわたって追跡するのが難しいため、ファン氏のチームは、狭い地域からのシグナルをパズルのように繋ぎ合わせて、こうした地震を追跡する手法を開発した。ところがこの作業中に、彼らが追跡している地震に似ているが厳密には異なる、異常な振動が現れてきた。
驚いたことに、この振動には季節性があり、5月から8月にかけては一度も発生していなかった。しかし、地殻変動で発生する地震は、通常は季節の移り変わりとは無関係だ。さらに、奇妙な振動は北米大陸の東西の海岸線から広がっていた。通常の地震は、西海岸にクモの巣状に走る断層に沿って発生するが、東海岸には震源になるような断層はほとんどない。
不思議に思ったファン氏らは、モデルを使って何が起きているかを探ったところ、ある関連に気が付いた。こうした振動の多くは、大型の嵐やハリケーンと同時に発生していたのだ。研究チームは、北米大陸の地震観測プログラムEarthScopeの一環として米国全土に数百台の地震計を設置しているUSArrayのデータを分析したところ、2006年から2015年までの間に1万4077回のストームクエイクを発見した。
■ストームクエイクはどうやって起きるのか
しかし、大きくて強烈な嵐が必ずしもストームクエイクを引き起こすわけではない。例えば、一部の地域で秒速約40mの風を記録したハリケーン「サンディー」の際にはシグナルは記録されなかった。ストームクエイクを引き起こすには、特定の地形が関係しているようだ。
例えば、ストームクエイクは大陸棚(大陸周辺の浅い海底)の幅の広いところで発生している。ファン氏は、この地形が波を変化させるのだろうと説明する。風が作り出す海の波は、ストームクエイクの20〜50ヘルツより高い周波数のシグナルを生成する。けれども幅の広い大陸棚と波との相互作用によって、より波長が長く、周波数の低い波ができるのだ。
10/18(金) 18:14
ナショナル ジオグラフィック日本版
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191018-00010001-nknatiogeo-sctch&p=1