■またNHKで…
かんぽ生命保険の不適切販売を指摘した「クローズアップ現代+」をめぐり、NHKが日本郵政グループの抗議を受けて続編の放送を延期していたことを毎日新聞がスクープした。
記事を読んで、「またか」と思わざるを得ない。NHKが外部の圧力に屈するのは、これまでにもたびたび繰り返されてきたからだ。
まず、毎日新聞やその他各紙の報道をもとに問題の経緯をたどる。
昨年4月に放送されたNHKの「クローズアップ現代+」では、かんぽ生命保険の不適切な営業実態を取り上げた。のちに金融庁の立ち入り検査を受けるなど、日本郵政グループを揺るがす事態となったこの問題を最初に報じたのがこの番組である。
NHKは番組終了後にさらなる続編の放送を目指し、情報提供を呼びかける動画をツイッターに投稿した。この動画に対し日本郵政が「犯罪的営業を組織ぐるみでやっている印象を与える」などと抗議して上田良一会長宛で削除を求めたため、番組の幹部が日本郵政に事情を説明したが、その際に「番組制作と経営は分離し、会長は番組制作に関与していない」などと発言したという。
これを突破口とみたのだろう。日本郵政は、「放送法では番組の最終責任者は会長だ」「NHKで全くガバナンスが利いていない」と反論し、釈明を求める文書を昨年8月にNHKの上田良一会長宛に送付。すると、NHKは動画を削除し、続編の放送もいったん延期した。
それだけではない。昨年10月に日本郵政がNHKの経営委員会に、NHKのガバナンス体制の検証を求める書面を送ると、石原進NHK経営委員長(JR九州相談役)が、番組幹部の発言に誤りがあったとして上田会長を注意。翌月には上田会長が、番組幹部の発言は「明らかに説明が不十分で、誠に遺憾です」と事実上の謝罪文書を日本郵政側に送ったという。
毎日新聞の報道後に石原経営委員長が発表したコメントでは、「郵政グループからの申し入れについて、会長に対し、視聴者目線に立った対応が行われるよう必要な措置を講ずることを伝えました。放送法第32条の規定のとおり、経営委員会が番組の編集に関与できないことは十分認識しており、自主自律や番組の編集の自由を損なう事実はございません」とする。
あくまでも放送法が禁じる個別の番組編集への介入ではないと強調するが、「クローズアップ現代+」での個別の放送を受けての会長への働きかけであろうと言わざるを得ない。
■「悲願」を人質に取られたNHK
年4月の放送は、かんぽ生命保険の不適切販売の実態を最初に指摘したもので、私もテレビで見たが、丹念な調査に基づいた説得力のある番組だった。今になってみれば、この放送を受けて他のメディアも追随してこの問題を取り上げ、金融庁も調査を始めたわけである。放送があった当時、ことの重大性を十分に認識せずにNHKに抗議する日本郵政の居直りぶりこそが大いに問題だと思うのだが、それにしても、なぜNHKはこうも弱腰だったのか。
カギは、抗議してきたのが、日本郵政だったことにある。日本郵政には、元総務次官だった鈴木康雄副社長をはじめ総務省の元幹部が多い。総務省は放送行政を所管する。要は、NHKは頭が上がらないのである。
そして、見逃してはならないのは、NHKがこの番組を放送し、続編の放送に向けて情報提供を呼びかけていた時期は、放送法の改正案の作成に向けた作業が総務省内で大詰めを迎えていた時期と重なっていたということだ。この改正案は、NHKによるテレビ放送のネットでの同時配信を可能とするもので、民放連や新聞協会から「民業圧迫だ」との反発を受けながらも、成長著しいネット市場への本格進出を目指すNHKにとって悲願とされてきた。
総務省では、「放送を巡る諸課題に関する研究会」でNHKのネット同時配信について長いあいだ議論を進め、昨年9月の第二次取りまとめに、それを認める内容が盛り込まれた。今年3月には放送法の改正案が閣議決定され、国会に提出。5月に成立した。延期されていたかんぽ生命保険の不適切販売問題の続編が「クローズアップ現代+」で放送されたのは、ようやく今年7月である。
「やはり総務省が関わる問題を触るなという雰囲気が局内にありました。日本郵政を敵に回したくなかったのも、総務省に睨まれて放送法改正の作業に影響が出るのを避けたかったからでしょう」
NHKの関係者はそう話す。
続きはソースで
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67506
かんぽ生命保険の不適切販売を指摘した「クローズアップ現代+」をめぐり、NHKが日本郵政グループの抗議を受けて続編の放送を延期していたことを毎日新聞がスクープした。
記事を読んで、「またか」と思わざるを得ない。NHKが外部の圧力に屈するのは、これまでにもたびたび繰り返されてきたからだ。
まず、毎日新聞やその他各紙の報道をもとに問題の経緯をたどる。
昨年4月に放送されたNHKの「クローズアップ現代+」では、かんぽ生命保険の不適切な営業実態を取り上げた。のちに金融庁の立ち入り検査を受けるなど、日本郵政グループを揺るがす事態となったこの問題を最初に報じたのがこの番組である。
NHKは番組終了後にさらなる続編の放送を目指し、情報提供を呼びかける動画をツイッターに投稿した。この動画に対し日本郵政が「犯罪的営業を組織ぐるみでやっている印象を与える」などと抗議して上田良一会長宛で削除を求めたため、番組の幹部が日本郵政に事情を説明したが、その際に「番組制作と経営は分離し、会長は番組制作に関与していない」などと発言したという。
これを突破口とみたのだろう。日本郵政は、「放送法では番組の最終責任者は会長だ」「NHKで全くガバナンスが利いていない」と反論し、釈明を求める文書を昨年8月にNHKの上田良一会長宛に送付。すると、NHKは動画を削除し、続編の放送もいったん延期した。
それだけではない。昨年10月に日本郵政がNHKの経営委員会に、NHKのガバナンス体制の検証を求める書面を送ると、石原進NHK経営委員長(JR九州相談役)が、番組幹部の発言に誤りがあったとして上田会長を注意。翌月には上田会長が、番組幹部の発言は「明らかに説明が不十分で、誠に遺憾です」と事実上の謝罪文書を日本郵政側に送ったという。
毎日新聞の報道後に石原経営委員長が発表したコメントでは、「郵政グループからの申し入れについて、会長に対し、視聴者目線に立った対応が行われるよう必要な措置を講ずることを伝えました。放送法第32条の規定のとおり、経営委員会が番組の編集に関与できないことは十分認識しており、自主自律や番組の編集の自由を損なう事実はございません」とする。
あくまでも放送法が禁じる個別の番組編集への介入ではないと強調するが、「クローズアップ現代+」での個別の放送を受けての会長への働きかけであろうと言わざるを得ない。
■「悲願」を人質に取られたNHK
年4月の放送は、かんぽ生命保険の不適切販売の実態を最初に指摘したもので、私もテレビで見たが、丹念な調査に基づいた説得力のある番組だった。今になってみれば、この放送を受けて他のメディアも追随してこの問題を取り上げ、金融庁も調査を始めたわけである。放送があった当時、ことの重大性を十分に認識せずにNHKに抗議する日本郵政の居直りぶりこそが大いに問題だと思うのだが、それにしても、なぜNHKはこうも弱腰だったのか。
カギは、抗議してきたのが、日本郵政だったことにある。日本郵政には、元総務次官だった鈴木康雄副社長をはじめ総務省の元幹部が多い。総務省は放送行政を所管する。要は、NHKは頭が上がらないのである。
そして、見逃してはならないのは、NHKがこの番組を放送し、続編の放送に向けて情報提供を呼びかけていた時期は、放送法の改正案の作成に向けた作業が総務省内で大詰めを迎えていた時期と重なっていたということだ。この改正案は、NHKによるテレビ放送のネットでの同時配信を可能とするもので、民放連や新聞協会から「民業圧迫だ」との反発を受けながらも、成長著しいネット市場への本格進出を目指すNHKにとって悲願とされてきた。
総務省では、「放送を巡る諸課題に関する研究会」でNHKのネット同時配信について長いあいだ議論を進め、昨年9月の第二次取りまとめに、それを認める内容が盛り込まれた。今年3月には放送法の改正案が閣議決定され、国会に提出。5月に成立した。延期されていたかんぽ生命保険の不適切販売問題の続編が「クローズアップ現代+」で放送されたのは、ようやく今年7月である。
「やはり総務省が関わる問題を触るなという雰囲気が局内にありました。日本郵政を敵に回したくなかったのも、総務省に睨まれて放送法改正の作業に影響が出るのを避けたかったからでしょう」
NHKの関係者はそう話す。
続きはソースで
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67506