世界が見過ごす北朝鮮の「もう一つの」大量破壊兵器
Forbes Nicole Fisher , CONTRIBUTOR 政治経済 2019/07/03 11:45
https://forbesjapan.com/articles/detail/28222
トランプ米大統領(左)と金正恩朝鮮労働党委員長(右)
中国には、「北朝鮮には2つの大量破壊兵器がある」という冗談がある。一つは核兵器、もう一つは結核だ。そして、境界も国境も関係なく空気感染する結核にはもう一つ、(治療薬が効かない)多剤耐性結核がある。さらに北朝鮮では、マラリアとB型肝炎の感染率も非常に高い。
ドナルド・トランプは6月30日、米国の現職大統領として初めて北朝鮮を訪問。金正恩朝鮮労働党委員長と会談し、非核化協議を再開することで合意した。だが、北朝鮮が世界に大量の死者を出しかねない力を持ち、安全保障上の重大な懸念をもたらしているのは、保有する核兵器のためだけではない。
●飢餓が迫る中で「万能薬」開発?
北朝鮮のメディアは、自国はHIV(エイズ)とがん、エボラ出血熱の全てを治療できる万能薬を開発し、これらの病気を国内から完全になくしたと報じている。だが、実際には同国では、何百万もの国民の命が危機にさらされ、清潔な水や食料、ワクチンといった基本的な生活必需品にも事欠いている。
こうした状態が続けば、人口およそ2500万人の北朝鮮では、6万人近い子供たちが飢え、何百万もの成人がすでに他の多くの地域で根絶されている感染症で苦しむことになる。同国の国民は40%が栄養不良とされている。
北朝鮮の脅威は、保有する核兵器だけにとどまらない。こうした「生物学的脅威」に関する協議も不可欠だ。
●体制が隠そうとしてきた事実
北朝鮮がここ数十年、数多くの自然災害、人為的災害に直面してきたことは間違いない。1990年代の経済崩壊以降、国民の平均寿命は急激に短くなっており、韓国とは12年の差がある。また、北朝鮮人は平均身長が韓国人より2.5〜7.6cm低いと推定され、それは主に、慢性的な栄養不良と極度の貧困のためとみられている。
入国を認められた医療関連の組織の多くが指摘するのは、壊滅的な打撃を与え得る病気の患者数の増加と、治療に当たる専門家の減少だ。そしてこれらが意味するのは、いずれ北朝鮮から国境を越えて、病気と人間への被害が広がり始めるということだ。
すでに伝えられているとおり、北朝鮮は長年、戦術として食料と飢えを使い、戦略的に人々をコントロールし、国連やその他の国際機関の関係者には、何であれ体制側が見せたいと思うものを見せてきた。
だが、2017年には北朝鮮を脱出した兵士によって、世界が驚く同国の実情が明らかになった。複数の銃弾を受けた兵士の治療にあたった韓国の経験豊富な医師らに衝撃を与えたのは、腸内で見つかった何十種類もの寄生虫と、長さ30pほどの回虫だった。
これは、北朝鮮には化学肥料がなく、農家が人糞を肥料に使っていることが原因とみられる。人糞は、兵士の胃腸から見つかったような寄生虫の感染が拡大させることで知られている。
●外交に期待は持てるのか?
北朝鮮に対する制裁措置には全て、人道的な配慮に基づく措置が含まれている。それでも近年、同国で活動していた援助団体や非営利組織の閉鎖が相次いでいる。同国では、銀行の送金システムさえ崩壊している。そして、国境なき医師団などの組織によれば、もう何十年にもわたって、医薬品も食料も、必要とする人たちに届いていない。
トランプ大統領と金委員長が非核化に関する協議を再開しても、世界中の人々の健康が脅かされていることに変わりはない。核協議が順調にいったとしても(そうなると予想する人はほとんどいないが)、北朝鮮の生物学的状況はさらに悪化していくことになるだろう。
国連の活動と人道的支援が今後も縮小されれば、多剤耐性結核とマラリアの感染は国内全体に急速に拡大することになるだろう(食料も清潔な水も、医療援助もさらに減少することになる)。