大阪府枚方市が先月、夫のドメスティックバイオレンス(DV)を恐れて転居した女性の住所を誤って夫に漏らし、女性が再び引っ越しを余儀なくされた。女性は現住所を漏らさないよう求める「DV等支援措置」を申請していたが、市は気付かずに住所を含む書類を夫に交付。市は漏えいを公表しておらず、専門家は「一歩間違えれば人命に関わる問題で、市は経緯を検証して公表すべきだ」と批判している。
枚方市などによると、夫は5月上旬、市役所の窓口で府営住宅の手続きに必要な所得証明書の交付を申請。職員は本人分とともに、現住所が記された女性の所得証明書も交付して漏えいした。
この日、夫が同じ窓口で住民票の交付を申請した際、職員は住民票などを管理する住民基本台帳(住基)システムに、女性がDV被害者であることを示す警告が出ていることに気付いた。この直前、同じ職員が女性の所得証明書を夫に渡していたことから、誤交付が発覚した。市は女性の転居先の自治体や府警に連絡。女性はその後、再び引っ越した。
市では、DV被害者が支援措置を申請すると、市民室が住民情報を取り扱う12の部署に連絡。各部署で関連書類を加害者らに交付しないよう、それぞれのシステムに入力する仕組みだ。女性は転居先の自治体で支援措置を申請し、枚方市にその連絡が届いていた。
市は、所得証明書を管理する税務システムに女性のDV情報が入力されていたかどうか、明らかにしていない。市は毎日新聞の取材に漏えいを認めたが、「女性の了解が得られていない」との理由で詳しい説明を拒んでいる。【伊藤遥、土田暁彦】
■DV被害者住所が加害者側に漏れるミス、全国で後絶たず
DV被害者の住所が加害者側に漏れるミスは、全国で後を絶たない。自治体が扱う個人情報は膨大で、漏えいを防ぐシステムの整備や、担当部署間の情報共有が十分とは言えないのが現状だ。
神戸市は今年3月、被害女性の住民票を、加害者とされる元夫の代理人の弁護士に誤交付。裁判資料として請求されたもので、市は依頼主が元夫であることを確認していなかった。岡山県里庄町も1月、被害女性の戸籍付票を加害者側の弁護士に交付。職員の認識不足だったという。
DV等支援措置は、主に住民票や戸籍を管理する市民課などが担当する。ただ、住所が含まれる書類は税や年金、育児など多岐にわたり、役所内での連携が重要だ。
京都府木津川市では2015年、夫のDVで転居した女性の住所を含む税務書類を夫に誤交付。女性の申請で住基システムには交付制限がかかっていたが、税務システムには反映されていなかった。千葉県柏市でも13年、被害女性の住所入りの子ども医療費助成受給券を元夫宅に誤送付。DV情報が担当課に共有されていなかった。
総務省などによると、DV等支援措置の対象者は18年、12万6696人で、10年前の約4倍。警察へのDV相談件数は7万7482件で、10年前の約3倍に増えている。【伊藤遥、土田暁彦】
■枚方市は検証、再発防止策の公表を
DV問題に詳しい戒能(かいのう)民江・お茶の水女子大名誉教授(ジェンダー法学)の話 なぜ誤交付が起きたのか、枚方市は問題点を検証し、再発防止策などを公表する必要がある。DV等支援措置は自治体によって運用に差があり、同様の漏えいが相次いでいる。国は統一基準を作るなどの対策を示すべきだ。
■DV等支援措置
DVやストーカー、児童虐待の被害者らを保護するため、被害者の住所が記載された住民票などを加害者らに交付しないようにする制度。住民基本台帳法に基づき、2004年に創設された。被害者の申し出を受けた市区町村は、警察や児童相談所などの意見を聞いて必要性を判断。加害者や代理人らが住民票や戸籍付票の交付、住民基本台帳の閲覧を申請すると、システム上に警告が出て交付などが制限される。
毎日新聞2019年6月14日 06時00分(最終更新 6月14日 06時00分)
https://mainichi.jp/articles/20190613/k00/00m/040/255000c
枚方市などによると、夫は5月上旬、市役所の窓口で府営住宅の手続きに必要な所得証明書の交付を申請。職員は本人分とともに、現住所が記された女性の所得証明書も交付して漏えいした。
この日、夫が同じ窓口で住民票の交付を申請した際、職員は住民票などを管理する住民基本台帳(住基)システムに、女性がDV被害者であることを示す警告が出ていることに気付いた。この直前、同じ職員が女性の所得証明書を夫に渡していたことから、誤交付が発覚した。市は女性の転居先の自治体や府警に連絡。女性はその後、再び引っ越した。
市では、DV被害者が支援措置を申請すると、市民室が住民情報を取り扱う12の部署に連絡。各部署で関連書類を加害者らに交付しないよう、それぞれのシステムに入力する仕組みだ。女性は転居先の自治体で支援措置を申請し、枚方市にその連絡が届いていた。
市は、所得証明書を管理する税務システムに女性のDV情報が入力されていたかどうか、明らかにしていない。市は毎日新聞の取材に漏えいを認めたが、「女性の了解が得られていない」との理由で詳しい説明を拒んでいる。【伊藤遥、土田暁彦】
■DV被害者住所が加害者側に漏れるミス、全国で後絶たず
DV被害者の住所が加害者側に漏れるミスは、全国で後を絶たない。自治体が扱う個人情報は膨大で、漏えいを防ぐシステムの整備や、担当部署間の情報共有が十分とは言えないのが現状だ。
神戸市は今年3月、被害女性の住民票を、加害者とされる元夫の代理人の弁護士に誤交付。裁判資料として請求されたもので、市は依頼主が元夫であることを確認していなかった。岡山県里庄町も1月、被害女性の戸籍付票を加害者側の弁護士に交付。職員の認識不足だったという。
DV等支援措置は、主に住民票や戸籍を管理する市民課などが担当する。ただ、住所が含まれる書類は税や年金、育児など多岐にわたり、役所内での連携が重要だ。
京都府木津川市では2015年、夫のDVで転居した女性の住所を含む税務書類を夫に誤交付。女性の申請で住基システムには交付制限がかかっていたが、税務システムには反映されていなかった。千葉県柏市でも13年、被害女性の住所入りの子ども医療費助成受給券を元夫宅に誤送付。DV情報が担当課に共有されていなかった。
総務省などによると、DV等支援措置の対象者は18年、12万6696人で、10年前の約4倍。警察へのDV相談件数は7万7482件で、10年前の約3倍に増えている。【伊藤遥、土田暁彦】
■枚方市は検証、再発防止策の公表を
DV問題に詳しい戒能(かいのう)民江・お茶の水女子大名誉教授(ジェンダー法学)の話 なぜ誤交付が起きたのか、枚方市は問題点を検証し、再発防止策などを公表する必要がある。DV等支援措置は自治体によって運用に差があり、同様の漏えいが相次いでいる。国は統一基準を作るなどの対策を示すべきだ。
■DV等支援措置
DVやストーカー、児童虐待の被害者らを保護するため、被害者の住所が記載された住民票などを加害者らに交付しないようにする制度。住民基本台帳法に基づき、2004年に創設された。被害者の申し出を受けた市区町村は、警察や児童相談所などの意見を聞いて必要性を判断。加害者や代理人らが住民票や戸籍付票の交付、住民基本台帳の閲覧を申請すると、システム上に警告が出て交付などが制限される。
毎日新聞2019年6月14日 06時00分(最終更新 6月14日 06時00分)
https://mainichi.jp/articles/20190613/k00/00m/040/255000c