インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方で双方の軍事的緊張が高まっている問題で、パキスタンのカーン首相は28日、拘束中のインド軍パイロットを1日中に解放すると明らかにした。インドのモディ首相は強硬な姿勢を崩していない中、空中戦にまで発展した核武装国同士の対立が収束するか注目される。
2月14日のテロ事件に端を発した対立では、双方がカシミール地方の実効支配線(停戦ライン)を越えて空爆を実施。ともに相手機を撃墜したと主張した。インド側は27日夜、パキスタンが拘束しているインド軍パイロットの早期返還を要求。パキスタン側が負傷した兵士の画像を公開したのは「国際人道法に反する」と遺憾の意も表明した。
これに対し、カーン氏は28日の議会での演説で、「平和の意思表示」として、パイロットを解放する意向を示した。カーン氏は「全ての戦争は判断の間違いで起こる」として当事者間での対話の重要性を強調。モディ氏との電話会談も要求した。
一方、モディ氏は同日の演説で「敵はインドを分断しようとしているが、インドは止まることはない」とパキスタンを名指しこそさけつつ批判。「いまこそ国が一丸となるべきだ」と語気を強めた。
インドは5月までに総選挙を控え、モディ氏率いる与党インド人民党(BJP)は苦戦も伝えられている。宿敵パキスタンへの弱腰姿勢は政権批判に直結しかねず、モディ氏は団結を呼びかけて政府への支持拡大につなげたい考えだ。
国際社会も双方が対立する事態を注視する。トランプ米大統領は28日、滞在先のベトナムで記者団に「米国は彼らを止めるための努力に関与している」と発言。詳細への言及は避けつつ独自の情報を持っていることを明らかにし、「うまくいけば緊張関係は終結するだろう」ともコメントもした。河野太郎外相や中国の王毅外相も事態を憂慮する声明を出し、印パ双方に自制を促した。
印パ関係について詳しい東洋アフリカ研究学院(英国)のアビナシュ・パリワル氏は産経新聞の取材に「カーン氏によるパイロットの解放表明は事態の沈静化に向けた一定のメッセージといえる。国際社会の平和への圧力もある中、双方がどう落としどころを見つけるか注目される」と話している。
2019.3.1 00:33
https://www.sankei.com/world/news/190301/wor1903010003-n1.html