農家・住民VSイノシシ 農業だけじゃない 「地域問題だ」2018年03月27日
https://www.agrinews.co.jp/p43646.html イノシシにかまれて指を切断したり、道路で突き倒されて打撲したりするなど
全国でイノシシによる人的被害が後を絶たない。背景に野生獣の生息範囲の拡大がある。
近年は田畑だけでなく住宅地にも出没し、人を襲う。
農家だけでなく一般住民が参加する駆除の取り組みが広がってきた。
町ぐるみでわなを見回ったり隠れ場を草刈りしたりして、被害を食い止めている。(齋藤花)
会社員も積極的に 町会ごと駆除組織 わな巡回3000頭捕獲 千葉県市原市
足跡だ。近くまで来ている──。3月中旬、千葉県市原市の山間地でイノシシの箱わなを
確認していたのは磯ケ谷町会駆除会のメンバー。会員23人の半数は、農家ではない住民たちだ。
町内に6台のわなを仕掛け、交代で毎日見回る。イノシシがわなに掛かっていれば、
猟友会を呼んで仕留めてもらう。
農家でない住民も駆除活動をするようになった経緯を、泉水良樹さん(70)は
「イノシシが通学路に出たり、軽トラックにぶつかったりするようになった」と振り返る。
町内会長だった泉水さんが「農家だけの問題ではない。人身被害を防ごう」と駆除会づくりを提案、
2015年に発足した。
磯ケ谷町会は、市営住宅を除く220世帯で構成する。駆除会には、会社員や定年退職者ら
44〜79歳が参加。うち2人が市の補助を受け、わな猟免許を取得した。
16年度は25頭を捕獲。17年度は現時点で13頭と昨年より減ったが、農業被害が2件と
前年の5分の1に減った。
農家は獣の餌にするサツマイモなどを同会に寄付し、同会は会報に捕獲数や写真を掲載し
「餌をありがとう」と農家への感謝も記す。わな免許を持つ柴崎等さん(64)も
「箱わなを私有地に仕掛けさせてくれる」と農家に感謝する。
メンバーの吉野隆さん(68)は会社員時代に培った組織運営力で、活動を始めたい近隣町会
への説明会を開く。今年から同会の指導で、近隣の松崎町でも駆除が始まる。
市原市内で駆除会を持つ町会は09年に17町会だったが、今年は100町会に増えた。
高齢者や子どもは柿や栗、畑の残さを拾って獣の餌をなくしたり、箱わなに入れる米ぬかを集めたり
して活動に加わる。
同市農林業振興課によると、市内のイノシシ被害地域の7割が町会駆除を実施する。
活動が奏功し、昨年度は市内の捕獲頭数が2998頭と4年前の6倍以上。
農作物被害は前年度比5割減の2800万円だった。
市は各町会へのアンケートを毎年行い、捕獲数が低い地域を専門家と共に診断する。
同課の高塚幸二係長は「農家の高齢化と耕作放棄地増大がイノシシを生活圏に踏み込ませた。
行政と町民と農家の共助対策は不可欠」と言う。
“集落一体”各地で成果
住民挙げた駆除組織の取り組みは、各地で広がっている。
愛知県豊橋市多米町では、鳥獣駆除をする多米猪鹿鳥クラブを16年に設立。約40人の会員は、
毎日交代でわなの見回りや餌の仕掛けを分担し、イノシシを年間40頭捕獲する。
栃木県益子町西明寺地区でも15、16年に住民全員で集落を歩いてイノシシの隠れ場所や
餌場の情報を集め、電気柵を設置した。耕作放棄地の草刈りを継続する。
農水省鳥獣対策室は「鳥獣害対策は集落機能を生かして継続することが必要。
人の少ない耕作放棄地で住民が草を刈れば、イノシシが人の気配を察知し、近寄らなくなる“追い払い”
の効果もある」と説明する。
人的被害急増 1月末で53人
今年1月、茨城県つくば市の自転車専用道で、男性がイノシシと20分以上もみ合って
右手親指を切断する重傷を負った。同市内では散歩中の女性もイノシシにかまれた。
2月には、愛媛県新居浜市で女性が自宅玄関でイノシシにのしかかられ、かまれる事件があった。
今月には、新潟県五泉市の住宅街でイノシシに衝突された男性2人が足を打撲。
愛知県蒲郡市でも、男女3人がイノシシにかまれて病院に搬送された。
環境省によると、イノシシの人的被害は、2016年度は47件59人だったが、
今年度は1月末までに既に42件53人に上っている。